冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(11 SIDE:テオ)

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アルベルタ王妃のお茶会の日の夜。テオは見回りの為にオズヴァルド王城の中庭にいた。

テオは小さく溜息をつくと、夜空を見上げた。
眩しい位に、十三夜の月が闇を照らし出していた。

幼い頃から、夜空を眺めるのが好きだった。
静かに瞬く星を見ていると、心が落ち着くような気がするからだ。
だが、今宵はその星空を見ていると、何故か心が沈んだ。

「…………嫌われたかもな」

テオは、明かりの消えた窓の方に視線を走らせた。
その部屋を使っているのは、リディア・コルシーニ。
王の影を纏めるコルシーニ伯爵家唯一の令嬢であり、テオの想い人だ。

リディアに恋心を抱いたのは、近衛騎士団に入団して間もない頃だった。
団長であるダンテの元を訪れていたリディアを見て、一目で心奪われた。

凛とした佇まい。
決して派手ではないが整った容姿に艷やかな栗色の髪と、真っ直ぐに人を見つめる栗色の瞳。
優雅なのに隙のない身のこなし。

彼女の全てが、テオを惹きつけた。
まるで自分自身が彼女に出会うために存在しているような錯覚に陥るほど、その出会いはテオにとって鮮烈なものだった。

それから、リディアに相応しい男になる為に必死で努力をした。近衛騎士としての訓練の他にも、身体を鍛え、剣の腕を磨き、沢山の書物を読んで知識を蓄えた。
少しでも、異性として意識してもらえるように努力した。
しかし、彼女はテオの事を気にも止めていない様子だった。

それでも、諦められなかった。
せめてもの救いは、彼女に特定の男婚約者がいる訳ではない、という事だろう。
異性として、恋愛対象として………いや、眼中にないだけで、可能性がなくなったわけではない。
それを希望に、努力し続けた。

エドアルドの決死の脱出劇にも参加し、ブラマーニ公爵家の謀反の裁きが終わった後に始まった地獄のような早朝鍛錬にも必死に食らいついた結果、エドアルドやラファエロ、そしてダンテからも実力を認められた。
そして漸く手にした好機。
それが今回の視察旅行だった。

これで彼女の視界に入ることが出来なければ、もう永遠に彼女の隣に立つことは出来ないだろうと思っていた。
だからこそ、決死の覚悟で声を掛け、冷たくあしらわれても挫ける事なく話しかけ続けた。
だが、彼女の態度が軟化することはなかった。
テオは自嘲しながら、小さく愛しいひとの名前を呟いた。

と。

物音がしたかと思うと、見つめていた窓が開き、そこに夜着を纏ったリディアが姿を現したのだ。

テオは一瞬言葉を、失った。
まるで、テオの呼びかけに答えてくれたようで、夢を見ているのかとさえ思ってしまう。

「………リディア嬢?」

はっと我に返った後、少し躊躇いながらも彼女に呼びかける。

すると、物思いに耽っていたらしいリディアは慌てた様子であちこちを探し、漸くテオの方に視線を向けてくれた。

「すみません、驚かせてしまいましたか?」
「あ、いえ…………」

リディアは素っ気ない態度は相変わらずで、挨拶だけするとふいっとテオから視線を外した。

「………夜は冷えます。どうして窓を開けているんですか?」
「目が冴えて、眠れなかっただけです。テオ様こそ何故こんな夜更けに他国の王城の庭を歩き回っているのです?」
「護衛として付いてきているのに夜間の護衛は全てオズヴァルドの騎士に任せるのは申し訳なくて、オズヴァルドの国王陛下の許可を得て、こうして見回りをしているんです」

少しはにかみながら、テオはリディアに精一杯の好意を込めた視線を向ける。

「女性があまり身体を冷やすのは良くないと聞きました。………眠れないのならば、ただ横になって目を瞑っているだけでも疲れは取れるはずですよ」
「………分かって、いますテオ様こそ、風邪でも引いて陛下やお兄様に迷惑をかけないで下さいませ。………では、私はこれで失礼します」
「あ…………っ」

もう少し彼女と話がしたかったのに、つっけんどんにそう告げられ、ピシャリと窓が閉められる。
それはまるで彼女の心みたいだとテオは思った。

ダンテには、彼女を振り向かせるために努力をすると大見得を切ったものの、段々と自信がなくなっていく。

無理にリディアを落とそうとしなくても、コルシーニ伯爵に婚約の申し出をする方法もあるが、その手段はどうしても使いたくなかった。

自分の力で、リディアに振り向いてもらいたい。

テオはきゅっと唇を噛み締めると、固く閉められた窓を、暫くの間見つめていたのだった。
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