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番外編
リディアの恋(7)
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その日は終始、クラリーチェがエドアルドに抱き抱えられた状態だったせいで、ずっとテオと共に行動する羽目になった。
「陛下、本当にお幸せそうですよね」
アルベルタ王妃主催のお茶会を眺めながら、ぽつりとテオが呟いた。
「当然でしょう。ずっと恋い焦がれていたクラリーチェ様を妃に迎えられたのですもの」
何を今更、といった様子でリディアはテオに視線を投げ掛ける。
「………想い人に、応えて貰えるというのはどんな感じなんでしょうね」
テオはエドアルドの方に視線を向けたまま、けれどそれよりも遠いどこかを見ているようだった。
ほんの僅かに眉を顰めるその表情は憂いを帯びて見える。
それは、明らかに恋を知る者の表情だった。
「…………どなたか、想う人がいらっしゃるのですね?」
リディアがそう問い掛けると、テオはビクリと肩を揺らす。
その反応に、自分の心の中が何かに掻き回されているような、チクリとした痛みを伴う気持ち悪さを感じた。
味わったことのない感情に戸惑いながらも、それを表面には一切出さず平静を装っていられるのは、偏にコルシーニ家の教育の賜物だろう。
「………そう、見えますか?」
問い掛けに、問い掛けを返してきたテオはまた微笑みを浮かべていた。
しかしそれは、いつもの穏やかな笑顔とは異なり、どこか苦しそうで悲しげにすら見える。
「私はそういった事にはあまり詳しくありませんから、よく分かりません。………ただ、よくクラリーチェ様がそのような表情をされていらっしゃったので、そう思っただけです」
抑揚のない声で、静かにそう告げると、テオの切なげな笑みが深くなった気がした。
「…………リディア嬢は、想いを寄せてらっしゃる方はいらっしゃらないのですか?」
ほんの少し震える灰色の瞳が、躊躇いがちに、だが真っ直ぐにリディアへと向けられた。
思いがけない問い掛けに、リディアは思わず瞠目した。
そんな事を、何故自分に訊ねてくるのだろうと、考えを巡らせるが、答えは出なかった。
微妙な空気が、二人の間を流れた。
「………私は、普通の令嬢ではありませんから、然るべき時が来たら、然るべき相手と婚姻を結ぶはずですので、私にそのような事をお尋ねになっても、あまり参考にならないと思います」
ほんの少し、申し訳無さそうに目を伏せると、テオはやはり切なげに微笑んでいるのを見て、いつもならば苛立つ筈なのに、今日は何故か胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「…………そう、ですか」
テオはそう呟いたきり、口を閉ざした。
重苦しい空気に気まずさを感じたリディアはそんなテオから視線を外し、気持ちを切り替えるかのように小さく溜息をつくと、楽しそうに笑うクラリーチェをぼんやりと見つめるのだった。
「陛下、本当にお幸せそうですよね」
アルベルタ王妃主催のお茶会を眺めながら、ぽつりとテオが呟いた。
「当然でしょう。ずっと恋い焦がれていたクラリーチェ様を妃に迎えられたのですもの」
何を今更、といった様子でリディアはテオに視線を投げ掛ける。
「………想い人に、応えて貰えるというのはどんな感じなんでしょうね」
テオはエドアルドの方に視線を向けたまま、けれどそれよりも遠いどこかを見ているようだった。
ほんの僅かに眉を顰めるその表情は憂いを帯びて見える。
それは、明らかに恋を知る者の表情だった。
「…………どなたか、想う人がいらっしゃるのですね?」
リディアがそう問い掛けると、テオはビクリと肩を揺らす。
その反応に、自分の心の中が何かに掻き回されているような、チクリとした痛みを伴う気持ち悪さを感じた。
味わったことのない感情に戸惑いながらも、それを表面には一切出さず平静を装っていられるのは、偏にコルシーニ家の教育の賜物だろう。
「………そう、見えますか?」
問い掛けに、問い掛けを返してきたテオはまた微笑みを浮かべていた。
しかしそれは、いつもの穏やかな笑顔とは異なり、どこか苦しそうで悲しげにすら見える。
「私はそういった事にはあまり詳しくありませんから、よく分かりません。………ただ、よくクラリーチェ様がそのような表情をされていらっしゃったので、そう思っただけです」
抑揚のない声で、静かにそう告げると、テオの切なげな笑みが深くなった気がした。
「…………リディア嬢は、想いを寄せてらっしゃる方はいらっしゃらないのですか?」
ほんの少し震える灰色の瞳が、躊躇いがちに、だが真っ直ぐにリディアへと向けられた。
思いがけない問い掛けに、リディアは思わず瞠目した。
そんな事を、何故自分に訊ねてくるのだろうと、考えを巡らせるが、答えは出なかった。
微妙な空気が、二人の間を流れた。
「………私は、普通の令嬢ではありませんから、然るべき時が来たら、然るべき相手と婚姻を結ぶはずですので、私にそのような事をお尋ねになっても、あまり参考にならないと思います」
ほんの少し、申し訳無さそうに目を伏せると、テオはやはり切なげに微笑んでいるのを見て、いつもならば苛立つ筈なのに、今日は何故か胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「…………そう、ですか」
テオはそう呟いたきり、口を閉ざした。
重苦しい空気に気まずさを感じたリディアはそんなテオから視線を外し、気持ちを切り替えるかのように小さく溜息をつくと、楽しそうに笑うクラリーチェをぼんやりと見つめるのだった。
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