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番外編
リディアの恋(5 SIDE:ダンテ)
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「町中での護衛をするのは、初めてなんですが………」
いつもは天真爛漫なテオが、珍しく自信のなさそうな様子を見せた。
「護衛、と言っても我々が動かねばならないことはほぼないだろう。目立たぬようにオズヴァルドの兵士が警備にあたってくれているからな」
王都の中心部にあるスカーレット歌劇場の入り口に立ったまま、ダンテはちらりとテオに声を掛けた。
「………テオ」
「何でしょうか、団長」
「お前…………その、本気なのか?」
「はい、当然です」
何が、とも言わないのにテオは即答した。
「………俺が口出しすることではないが、あいつは………何というか、使命感に燃えるタイプで、それ以外の事にはとことん興味がないというか…………」
「………いいんです。俺は、リディア嬢のそういうところが好きなんです。一番じゃなくてもいい。でも、いつか振り向いて貰えるように、全力を尽くしますから」
強い意志を宿した灰色の瞳は、一切の曇りがなかった。
テオ・スカリオーネという男に、ダンテは少なからず好感を抱いていた。
彼が近衛騎士団に入団してきたのは二年前。彼がまだ十六歳の頃だった。
その頃はまだ線の細い、少年の域を脱していないような印象だったが、剣の腕は確かだった。
「近衛騎士になるのが、夢だったんです」
鍛錬は、辛くないのかと問い掛けたダンテに、テオは笑顔を見せながらただ一言、そう答えた。
どんなにきつい鍛錬にも、文句一つ言わず、弱音を吐くことすらもしなかった。
エドアルドが強行した早朝の鍛錬にも毎日欠かさずに出ていたというのも評価が高い一因だが、彼は近衛騎士の仕事に誇りを持っていることを、ダンテは高く評価していた。
日々の鍛錬の成果もあって、入団当時とは別人のような、いかにも騎士といった体つきへと変わり、どちらかというと柔和な印象を与える顔つきも、精悍になってきたと感じていたある日、テオから持ちかけられた相談。………それは、妹のリディアに片想いをしているという衝撃的な内容のものだった。
リディアはコルシーニ伯爵家唯一の娘だが、剣の腕、情報収集能力、体力のどれを取っても他の兄弟に引けを取らない実力の持ち主だが、きちんと令嬢としての知識も身に付けている。
そろそろ本腰を入れて結婚相手を探さなければならない年齢になっているのだが、当人に全くその気がなく、縁談が来ても大抵一刀両断されて終わってしまっていた。
「私、自分より弱い男とは結婚など出来ません」
開口一番にそう言い放った妹の顔は、今でも忘れられない。
両親がそんな妹に何も言わないのは、両親も同じ考えを持っているからだろう。
コルシーニ伯爵家は、王の影を担う一族。
兄弟の中で誰よりもそのコルシーニ家の血が濃いリディアに想いを寄せてしまった純朴な青年を、ダンテはまじまじと見つめた。
「あれは、手強いぞ」
「はい、覚悟の上です」
「………お前よりも年上だけど、いいのか?」
「たった一つしか違わないではありませんか」
「………口説ける自信があるのか?」
「わかりません。でも、諦めません」
迷いのない、潔い返事が、彼の心を反映しているようだった。
或いは、彼ならば。
ダンテは密かに、テオという男に期待をしようと心に決めたのだった。
いつもは天真爛漫なテオが、珍しく自信のなさそうな様子を見せた。
「護衛、と言っても我々が動かねばならないことはほぼないだろう。目立たぬようにオズヴァルドの兵士が警備にあたってくれているからな」
王都の中心部にあるスカーレット歌劇場の入り口に立ったまま、ダンテはちらりとテオに声を掛けた。
「………テオ」
「何でしょうか、団長」
「お前…………その、本気なのか?」
「はい、当然です」
何が、とも言わないのにテオは即答した。
「………俺が口出しすることではないが、あいつは………何というか、使命感に燃えるタイプで、それ以外の事にはとことん興味がないというか…………」
「………いいんです。俺は、リディア嬢のそういうところが好きなんです。一番じゃなくてもいい。でも、いつか振り向いて貰えるように、全力を尽くしますから」
強い意志を宿した灰色の瞳は、一切の曇りがなかった。
テオ・スカリオーネという男に、ダンテは少なからず好感を抱いていた。
彼が近衛騎士団に入団してきたのは二年前。彼がまだ十六歳の頃だった。
その頃はまだ線の細い、少年の域を脱していないような印象だったが、剣の腕は確かだった。
「近衛騎士になるのが、夢だったんです」
鍛錬は、辛くないのかと問い掛けたダンテに、テオは笑顔を見せながらただ一言、そう答えた。
どんなにきつい鍛錬にも、文句一つ言わず、弱音を吐くことすらもしなかった。
エドアルドが強行した早朝の鍛錬にも毎日欠かさずに出ていたというのも評価が高い一因だが、彼は近衛騎士の仕事に誇りを持っていることを、ダンテは高く評価していた。
日々の鍛錬の成果もあって、入団当時とは別人のような、いかにも騎士といった体つきへと変わり、どちらかというと柔和な印象を与える顔つきも、精悍になってきたと感じていたある日、テオから持ちかけられた相談。………それは、妹のリディアに片想いをしているという衝撃的な内容のものだった。
リディアはコルシーニ伯爵家唯一の娘だが、剣の腕、情報収集能力、体力のどれを取っても他の兄弟に引けを取らない実力の持ち主だが、きちんと令嬢としての知識も身に付けている。
そろそろ本腰を入れて結婚相手を探さなければならない年齢になっているのだが、当人に全くその気がなく、縁談が来ても大抵一刀両断されて終わってしまっていた。
「私、自分より弱い男とは結婚など出来ません」
開口一番にそう言い放った妹の顔は、今でも忘れられない。
両親がそんな妹に何も言わないのは、両親も同じ考えを持っているからだろう。
コルシーニ伯爵家は、王の影を担う一族。
兄弟の中で誰よりもそのコルシーニ家の血が濃いリディアに想いを寄せてしまった純朴な青年を、ダンテはまじまじと見つめた。
「あれは、手強いぞ」
「はい、覚悟の上です」
「………お前よりも年上だけど、いいのか?」
「たった一つしか違わないではありませんか」
「………口説ける自信があるのか?」
「わかりません。でも、諦めません」
迷いのない、潔い返事が、彼の心を反映しているようだった。
或いは、彼ならば。
ダンテは密かに、テオという男に期待をしようと心に決めたのだった。
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