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番外編
リディアの恋(3)
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「リディアさん、何かありました?」
移動中の馬車の中で、アンナが躊躇いがちに声を掛けてきた。
「………いいえ?何もないけれど…………」
窓の外を眺めながら、気のない返事をする。
「………本当ですか?物凄く不機嫌そうに、眉間に皺が寄っていますよ?」
「え」
指摘されて思わず、額を隠すように手を持っていった。
無意識のうちに、険しい表情をしていたようだった。
気持ちを表に出していたことに気が付かないほど気がそぞろになっていたことに、リディアは何とも言えない気分になる。
「………私も精一杯頑張りますから、一人で気を張りすぎないでくださいね?」
どうやらアンナは、クラリーチェの護衛のことで気を張っているのだと考えたようだ。
勿論それもあるが、今回の目的地はオズヴァルド王国の王都。おそらく世界で最も治安の良い都だ。それに、クラリーチェの護衛件侍女という立場での同行だが、エドアルドは下手な騎士よりもよっぽど腕が立つ。そこにダンテもつくのだから、場合によっては一小隊くらいの敵なら二人で簡単に殲滅出来るだろう。
つまり、護衛よりも侍女としての役割の方に重きが置かれているのだ。
「………陛下とお兄様がいれば、連れて行く必要なんてないと思うのだけれど」
溜息と同時に、小さなぼやきが思わず口から零れてしまった。
「え?何ですか?」
はっとして、リディアは思わず曖昧な笑みを顔に貼り付けた。
「ただの、独り言よ」
動揺しかけた心を落ち着かせるように深呼吸をすると、リディアはまた平静を装った涼し気な雰囲気を纏う。
どうしてこんなにも、心が乱れるのだろう。
落ち着かないのは、久しぶりの遠出だからなのだろうか。
また苛つき始めた自分を宥めようと、反対側の窓に視線を移すと、テオの姿が目に入ってきた。
ダンテとテオは、外部からの敵に対応するために馬での移動となっている。
リディアもアンナも勿論馬には乗れるが、今回は荷物と共に馬車での移動だ。
風に擦れ合う梢の隙間から差し込む陽の光に、彼の亜麻色の髪がキラキラと煌めく。
「…………」
胸の奥が、チリチリと燻る様な、奇妙な感覚がリディアを襲い、リディアは不快感に顔を一瞬だけ歪めた。
「…………ねえ、アンナ」
「はい、何でしょう?」
「異性に嫉妬って、するものかしらね?」
唐突に投げられた問いかけに、アンナは少し困った表情を浮べる。
「………まあ、ありえなくはないと思いますけれど…………でも、なぜ急にそんなことを聞くんですか………?」
「………ちょっと、気になっただけよ。あまり気にしないで」
「はあ…………」
リディアの様子がおかしいのは、一目瞭然だったが、アンナはそれ以上追求しようとはしなかった。
その気遣いを有り難く思いながらも、自分を翻弄する不快感を何とか取り除きたいと考えながら、再び溜息をつくのだった。
移動中の馬車の中で、アンナが躊躇いがちに声を掛けてきた。
「………いいえ?何もないけれど…………」
窓の外を眺めながら、気のない返事をする。
「………本当ですか?物凄く不機嫌そうに、眉間に皺が寄っていますよ?」
「え」
指摘されて思わず、額を隠すように手を持っていった。
無意識のうちに、険しい表情をしていたようだった。
気持ちを表に出していたことに気が付かないほど気がそぞろになっていたことに、リディアは何とも言えない気分になる。
「………私も精一杯頑張りますから、一人で気を張りすぎないでくださいね?」
どうやらアンナは、クラリーチェの護衛のことで気を張っているのだと考えたようだ。
勿論それもあるが、今回の目的地はオズヴァルド王国の王都。おそらく世界で最も治安の良い都だ。それに、クラリーチェの護衛件侍女という立場での同行だが、エドアルドは下手な騎士よりもよっぽど腕が立つ。そこにダンテもつくのだから、場合によっては一小隊くらいの敵なら二人で簡単に殲滅出来るだろう。
つまり、護衛よりも侍女としての役割の方に重きが置かれているのだ。
「………陛下とお兄様がいれば、連れて行く必要なんてないと思うのだけれど」
溜息と同時に、小さなぼやきが思わず口から零れてしまった。
「え?何ですか?」
はっとして、リディアは思わず曖昧な笑みを顔に貼り付けた。
「ただの、独り言よ」
動揺しかけた心を落ち着かせるように深呼吸をすると、リディアはまた平静を装った涼し気な雰囲気を纏う。
どうしてこんなにも、心が乱れるのだろう。
落ち着かないのは、久しぶりの遠出だからなのだろうか。
また苛つき始めた自分を宥めようと、反対側の窓に視線を移すと、テオの姿が目に入ってきた。
ダンテとテオは、外部からの敵に対応するために馬での移動となっている。
リディアもアンナも勿論馬には乗れるが、今回は荷物と共に馬車での移動だ。
風に擦れ合う梢の隙間から差し込む陽の光に、彼の亜麻色の髪がキラキラと煌めく。
「…………」
胸の奥が、チリチリと燻る様な、奇妙な感覚がリディアを襲い、リディアは不快感に顔を一瞬だけ歪めた。
「…………ねえ、アンナ」
「はい、何でしょう?」
「異性に嫉妬って、するものかしらね?」
唐突に投げられた問いかけに、アンナは少し困った表情を浮べる。
「………まあ、ありえなくはないと思いますけれど…………でも、なぜ急にそんなことを聞くんですか………?」
「………ちょっと、気になっただけよ。あまり気にしないで」
「はあ…………」
リディアの様子がおかしいのは、一目瞭然だったが、アンナはそれ以上追求しようとはしなかった。
その気遣いを有り難く思いながらも、自分を翻弄する不快感を何とか取り除きたいと考えながら、再び溜息をつくのだった。
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