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番外編
リディアの恋(2)
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慌しい日々を過ごしているうちに、あっという間に視察旅行出発当日を迎えた。
「おはようございます、コルシーニ伯爵令嬢!今日は絶好の旅行日和ですね!今から出立が愉しみで仕方ありません」
馬車に荷物を運び込もうとしていると、既にその場には真夏の力強い朝日のような、眩しい笑顔を浮かべたテオが立っていた。
「………おはようございます、スカリオーネ伯爵子息様」
朝からこれ程活力に溢れているというのは、体力がある証拠だろう。流石にダンテが認めるだけあると考えながら、リディアはもくもくと荷物を積み込む。
「荷物なら、私が運びますよ。それから、もし宜しければ私のことはテオ、と気軽にお呼びください。私の方が年下ですし、その方が心の距離が縮まるような気がしませんか?」
こちらが怯んでしまいそうなほどの天真爛漫な態度に、リディアは顔が引きつるのを感じた。
「………肉体労働には慣れておりますので、結構です。それから、呼び方の件は特に必要もないかと思いますので今までどおり呼ばせていただきます」
ぴしゃりと言い切るリディアに、テオは苦笑いを浮かべながらも食い下がった。
「では、どうしてもお手伝いさせて頂きたいと申し上げればいかがでしょう?」
テオは煙水晶のように煌めく灰色の瞳を真っ直ぐにリディアへとぶつけて来た。
「………それも、駄目ですか?」
父や兄に負けない程の立派な体躯の持ち主が、まるで捨てられた仔犬のような潤んだ眼差しで、許しを請いている。
リディアは暫し手を止めて考えた。
「………お好きになさってください」
するとテオは瞬時に顔を輝かせた。
「本当ですか?!ありがとうございます!!」
「…………はあ……………」
大声でお礼を言われるようなことではないだろうと思いながら、リディアは眉間に皺を寄せて、作業を再開する。その前を、意気揚々とした様子で荷物を運ぶテオをじっと見つめた。
この前初めて言葉を交わしたときもそうだったが、この男と接していると、何だか調子が狂うようだった。
不快感とは違う、苛立ちに似た何かが、リディアの心をざわりと撫でるようで、それが何だか腹立たしくさえ感じる。
今まで自分の周囲には存在しなかったタイプの人間だからなのだろうか。
彼にだけそのような感情を覚えることに戸惑いを感じながら、リディアは冷静になるように己に言い聞かせるが、今日からしばらくの間、毎日この男と顔を合わせなければならないと考えると、憂鬱な気持ちが湧き上がってくるのを、リディアは感じるのだった。
「おはようございます、コルシーニ伯爵令嬢!今日は絶好の旅行日和ですね!今から出立が愉しみで仕方ありません」
馬車に荷物を運び込もうとしていると、既にその場には真夏の力強い朝日のような、眩しい笑顔を浮かべたテオが立っていた。
「………おはようございます、スカリオーネ伯爵子息様」
朝からこれ程活力に溢れているというのは、体力がある証拠だろう。流石にダンテが認めるだけあると考えながら、リディアはもくもくと荷物を積み込む。
「荷物なら、私が運びますよ。それから、もし宜しければ私のことはテオ、と気軽にお呼びください。私の方が年下ですし、その方が心の距離が縮まるような気がしませんか?」
こちらが怯んでしまいそうなほどの天真爛漫な態度に、リディアは顔が引きつるのを感じた。
「………肉体労働には慣れておりますので、結構です。それから、呼び方の件は特に必要もないかと思いますので今までどおり呼ばせていただきます」
ぴしゃりと言い切るリディアに、テオは苦笑いを浮かべながらも食い下がった。
「では、どうしてもお手伝いさせて頂きたいと申し上げればいかがでしょう?」
テオは煙水晶のように煌めく灰色の瞳を真っ直ぐにリディアへとぶつけて来た。
「………それも、駄目ですか?」
父や兄に負けない程の立派な体躯の持ち主が、まるで捨てられた仔犬のような潤んだ眼差しで、許しを請いている。
リディアは暫し手を止めて考えた。
「………お好きになさってください」
するとテオは瞬時に顔を輝かせた。
「本当ですか?!ありがとうございます!!」
「…………はあ……………」
大声でお礼を言われるようなことではないだろうと思いながら、リディアは眉間に皺を寄せて、作業を再開する。その前を、意気揚々とした様子で荷物を運ぶテオをじっと見つめた。
この前初めて言葉を交わしたときもそうだったが、この男と接していると、何だか調子が狂うようだった。
不快感とは違う、苛立ちに似た何かが、リディアの心をざわりと撫でるようで、それが何だか腹立たしくさえ感じる。
今まで自分の周囲には存在しなかったタイプの人間だからなのだろうか。
彼にだけそのような感情を覚えることに戸惑いを感じながら、リディアは冷静になるように己に言い聞かせるが、今日からしばらくの間、毎日この男と顔を合わせなければならないと考えると、憂鬱な気持ちが湧き上がってくるのを、リディアは感じるのだった。
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