冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

リディアの恋(1)

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「コルシーニ伯爵令嬢!ちょうど良かった。少し、よろしいですか?」

それは、エドアルドとクラリーチェの結婚式が終わり、オズヴァルドへ視察旅行に出掛けることが決まった直後のことだった。
急遽決まった国外旅行の為の支度に追われ、慌ただしく動き回っているリディアを、一人の近衛騎士が呼び止めた。

「………何の御用ですか、スカリオーネ伯爵子息?」

リディアは目の前に突如現れた近衛騎士に、やや苛立ったように冷たい視線を浴びせた。
亜麻色の髪を短く刈り込んだ、灰色の瞳を持つ彼の名前はテオ・スカリオーネ。
グロッシ侯爵家の傍流にあたるスカリオーネ伯爵家の次男である彼は、約二年前に近衛騎士に入ってから、メキメキと力をつけている有望株の青年なのだと珍しく兄のダンテが褒めていたのを思い出す。
確かあの開港祭の事故の時も、エドアルドやラファエロ達と共に遠泳をやってのけた強者の一人だ。
リディアとの接点は、彼の上司の妹ということ以外は特に無かったはずだし、存在こそ知っていても、今まで言葉を交わした事すらなかった筈だが、一体何の用事だろうと不思議に思う。

「あの、………この度の視察旅行のことなのですが、団長と共に私が同行させて頂くことになりましたので、ご挨拶をしておこうと思いまして………」

初夏の潮風のような清々しさを感じる爽やかな、けれどどこか照れたような笑顔を向けながら話しかけてくるテオは、絵に描いたような好青年といった雰囲気だが、リディアの態度は、彼のことなど全く眼中にないようで素っ気ないものだった。
彼女の頭の中は、敬愛してやまない主・クラリーチェのことで一杯で、他のことなど全く興味がなかったのだ。
今も早くクラリーチェの元へ向かう途中だったというのに、呼び止められたことに若干の苛立ちすら覚えていた。

「そうですか。それはご丁寧にありがとうございます。…………では私は急いでおりますのでご用件がそれだけであれば、これで失礼させていただきたいのですが」

別にわざわざ呼び止めて挨拶する必要などないだろうと思いながら、リディアはじっとテオを見つめる。

「あぁ………それは失礼致しました。どうぞ」

苦笑いしながら大柄な体を素早く動かして道を開けるとテオに対し、リディアは丁寧な仕草でお辞儀をすると、真っ直ぐに廊下の先を見据えると足早にその場を立ち去っていった。

その後ろ姿を見送るテオが悲しそうに、だが別の感情を込めた眼差しを向けて微笑んだ事など、その時のリディアは知るよしもなかった。
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