冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

新婚旅行(おまけ SIDE:ヴァレリオ)

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それは、市街地への視察に行った日の晩餐の後。
ヴァレリオは自室に戻ると湯浴みを済ませ、機嫌よく寛いでいた。

「あら、ヴァレリオ様。随分と?」

扉をノックする音と共に、嫋やかな笑みを湛えたアルベルタが侍女を伴い入ってきた。

「うむ。エドアルドの幸せそうな様子がこの目で見れるのが、嬉しいのだ」

青い瞳をを細めると、ヴァレリオは微笑む。
クラリーチェが酒に弱く、少量でも注意するようにとのラファエロからの情報を悪用したヴァレリオは、こっそりクラリーチェの飲み物に微量の果実酒を混ぜた。
今頃新婚の二人が甘い夜を過ごしている事だろう。

「リベラートが結婚した時も、同じことを仰っておりましたわね」

アルベルタはヴァレリオの向かいの椅子に腰を下ろすと、侍女に持ってきたものを用意させた。

「では今宵は祝杯でもいかがです?実は最上級のグラッパがございますの」

グラッパはキエザの北部で作られる蒸留酒で、ヴァレリオが最も好む酒の一つだった。
愛する妻からの思わぬ提案に、ヴァレリオの頬が緩んだ。
そんなヴァレリオに、侍女に下がるように伝えたアルベルタが手際よくグラスに酒を注ぐ。

「………あの幼かったエドアルドも、立派な王になったのだな」

一気にグラスを呷ると、ヴァレリオは感慨深そうに呟いた。

「ええ。子供はいつまでも幼いまま立ち止まってはおりませんわ」

昔話に花を咲かせながら、夫のグラスにグラッパを注いでいく。
どれ位の間、そうしていただろうか。端正な顔がほんのりと赤く染まってきたヴァレリオをアルベルタがちらりと見た。

「それにしても、エドアルドは随分と熱心に鍛錬をしているようですわね」
「ああ、そうらしいな。有り余る体力を発散させるためにかなり鍛えているようだ」

それを聞いたアルベルタの琥珀色の瞳が鋭く光ったことに、ヴァレリオは気が付かなかった。

「………ねぇ、ヴァレリオ様?ラファエロからの報告が私のところにも届いているというのは、ご存知かしら?」

アルベルタの猫撫で声に、ヴァレリオは一瞬寒気を覚えた。

「…………は?」

何とも間抜けな声が己の口から漏れたことに、ヴァレリオは気が付かない。
気がつくと既にグラッパの瓶は一本が空になり、二本目になっていた。

「ヴァレリオ様?あなたがクラリーチェちゃんのグラスに果実酒を注ぐよう指示したのを私が気が付かないとでも思ったかしら?………リベラートの時もジゼルちゃんに同じことをして酷い目にあったというのに、忘れてしまったようですわね?」
「あ…………」

ヴァレリオの顔から血の気が、引いていく。しかしそれ以上に酔いが回り、ヴァレリオの視界はぐるぐると廻り始めていた。

ヴァレリオは調子に乗り、すっかり忘れていた。
アルベルタの鋭い洞察力、彼女の母性本能の強さ、そして何より酒の強さを。
グラッパのアルコール度数は、三十度から六十度。葡萄酒に比べると二倍から五倍程にもなるが、ヴァレリオと同じだけ飲んでもアルベルタは顔色も全く変わっておらず、滑舌もはっきりしている。

「ヴァレリオ様、酩酊状態のクラリーチェちゃんに迫られたエドがどうなるか位は想像出来ましたわよね?………幾ら何でも、やって良いことと悪いことがあります。それを、よーく肝に銘じてくださいませ」

アルベルタは恐ろしいほどに艶やかな笑みを浮かべると、己のグラスを一気に呷ると、止めとばかりにそれをそのまま口移しでヴァレリオに飲ませた。

「明日の公務は全て取りやめにしておきましたので、ゆっくりと反省しながらお休みくださいませね?」

アルベルタは金色に輝くヴァレリオの前髪を掻き上げると、額に優しく口付けを落とすと、ヴァレリオ付の侍女を呼び、自身は優雅な足取りで自室へと戻っていくのだった。

そして翌日、ヴァレリオは激しい二日酔いで再起不能になっていたということは、アルベルタとヴァレリオ付の侍女と侍従のみが知る事実となった。


※※※※※※※

あの日の再起不能の裏話でした。
新婚旅行編はこれにて終了です。
頂いているリクエストがまだまだ残っているので、順番にお応えしていきます。
お待たせしてしまい、申し訳ありません………。
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