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番外編
新婚旅行(8)
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スカーレット歌劇場の建物は、洗練されていながらも王都の景観に溶け込んだ伝統的な建築様式を用いた素晴らしいものだった。
「流石は芸術の都と称されるだけありますね」
クラリーチェはほうっと感嘆の溜息を零しながら建物を見上げる。
「本当に貴女は何でも知っているのだな。貴女に愛想を尽かされないように、勉強しておかないといけないな」
「まあ、陛下ったらご冗談を………」
はにかんだ笑みを浮かべるクラリーチェを、エドアルドは愛おしげに見つめながらエスコートする。
キエザにも歌劇場がないわけではないが、世界に名を馳せるほど有名なスカーレット歌劇場とでは比較にならなかった。
だが、もちろんクラリーチェは歌劇を鑑賞するのも、歌劇場に足を踏み入れるのも初めてのことだった。
「何だか………緊張しますわ」
「我が妃として、いつも堂々と振る舞ってくれているのに、一体どうしたと言うんだ?私のかわいい人………?」
舞台の直ぐ側の席に案内されたクラリーチェは、広い場内にたった二人だけの観客という、考えられないような贅沢な状況に、身の置き場のないような、そわそわとした気持ちになり、それをエドアルドに訴えると、エドアルドが色香を纏った甘い声でそんな事を囁いてきた。
途端にクラリーチェは耳まで真っ赤に染まった。
「もう、揶揄わないでください!」
「そんなつもりはないのだがな」
エドアルドは愉しそうに笑うと、クラリーチェの手の甲に口付けを落とした。
「今日の演目は、『氷の姫君』にした。以前、観てみたいと言っていただろう?」
「え………?」
それは、まだ二人の想いが通じ合ったばかりの頃、妃教育の合間を縫ってでも読書をしようとするクラリーチェに、興味本位でエドアルドが『今一番気になる本は何か』と訊ねると、クラリーチェは迷うことなく『氷の姫君』の物語だと答えた。そして出来ればスカーレット歌劇場で、氷の姫君の歌劇を観たいのだと教えてくれた。
『氷の姫君』は放浪の旅に出た異国の王子と、愛を信じられなくなり、心が氷のように凍りついた美貌の姫君の恋物語。
エドアルドも知ってはいたが、歌劇で見るのは初めてだった。
「覚えていて、下さったのですね」
「それは勿論、愛しい妃の望みだからな」
二人が見つめ合うと、ゆっくりと緞帳が上がった。
一国の国王夫妻という身分から考えれば、普通ならばボックス席で鑑賞するものだが、今日はアリーナ席のため、演者との距離が近く、迫力があるとエドアルドは感じた。
隣には目を輝かせながら見入っている最愛の妻がいて、正直歌劇よりそちらに夢中になりそうになるのを抑えながら、物語の世界に浸るのだった。
「流石は芸術の都と称されるだけありますね」
クラリーチェはほうっと感嘆の溜息を零しながら建物を見上げる。
「本当に貴女は何でも知っているのだな。貴女に愛想を尽かされないように、勉強しておかないといけないな」
「まあ、陛下ったらご冗談を………」
はにかんだ笑みを浮かべるクラリーチェを、エドアルドは愛おしげに見つめながらエスコートする。
キエザにも歌劇場がないわけではないが、世界に名を馳せるほど有名なスカーレット歌劇場とでは比較にならなかった。
だが、もちろんクラリーチェは歌劇を鑑賞するのも、歌劇場に足を踏み入れるのも初めてのことだった。
「何だか………緊張しますわ」
「我が妃として、いつも堂々と振る舞ってくれているのに、一体どうしたと言うんだ?私のかわいい人………?」
舞台の直ぐ側の席に案内されたクラリーチェは、広い場内にたった二人だけの観客という、考えられないような贅沢な状況に、身の置き場のないような、そわそわとした気持ちになり、それをエドアルドに訴えると、エドアルドが色香を纏った甘い声でそんな事を囁いてきた。
途端にクラリーチェは耳まで真っ赤に染まった。
「もう、揶揄わないでください!」
「そんなつもりはないのだがな」
エドアルドは愉しそうに笑うと、クラリーチェの手の甲に口付けを落とした。
「今日の演目は、『氷の姫君』にした。以前、観てみたいと言っていただろう?」
「え………?」
それは、まだ二人の想いが通じ合ったばかりの頃、妃教育の合間を縫ってでも読書をしようとするクラリーチェに、興味本位でエドアルドが『今一番気になる本は何か』と訊ねると、クラリーチェは迷うことなく『氷の姫君』の物語だと答えた。そして出来ればスカーレット歌劇場で、氷の姫君の歌劇を観たいのだと教えてくれた。
『氷の姫君』は放浪の旅に出た異国の王子と、愛を信じられなくなり、心が氷のように凍りついた美貌の姫君の恋物語。
エドアルドも知ってはいたが、歌劇で見るのは初めてだった。
「覚えていて、下さったのですね」
「それは勿論、愛しい妃の望みだからな」
二人が見つめ合うと、ゆっくりと緞帳が上がった。
一国の国王夫妻という身分から考えれば、普通ならばボックス席で鑑賞するものだが、今日はアリーナ席のため、演者との距離が近く、迫力があるとエドアルドは感じた。
隣には目を輝かせながら見入っている最愛の妻がいて、正直歌劇よりそちらに夢中になりそうになるのを抑えながら、物語の世界に浸るのだった。
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