冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

新婚旅行(6)

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「この絵は、私の母がとても好きだった絵なのだそうだ」

エドアルドの水色の双眸が、絵画からクラリーチェへと移る。

「リオネッラ様が…………?」

生国にあるこの絵を、リオネッラが好きだったというのは別に不思議なことはない。

「この絵を見ていると、自分の中のやましい感情を戒めることが出来ると、生前母は話していたそうだ。………私はまだ幼く、そんな記憶は残っていないが………。だが、あんなにも強く、清廉だった母にも、色々思うところがあったのだと、大人になって、伯父からこの絵の話を聞いて感じた。………この国から、一夫多妻制を認める国に嫁ぐのは、さぞかし辛かったのだろうな」

エドアルドは寂しそうに笑う光景に、クラリーチェは胸が締め付けられるような気持ちになった。

「この場で、私は改めて誓う。私の妃はクラリーチェ………生涯貴女のみだ。貴女を、母のような目には合わせないし、私の全てで貴女を幸せにする。きっと母も………そして貴女のご両親も、それを望んでいるはずだ」

室内に、エドアルドの低くて艷やかな声が、不思議な位に反響して聞こえた。

「………エドアルド………様」
「リベラートから視察の話を持ちかけられた時に、絶対にここに連れてきてそう誓おうと心に決めていたんだ。…………貴女を泣かせたい訳ではないのだから、どうか涙を拭いて、私に口付けをしてくれないか?」
「な………泣いてなど………っ」

慌てて否定しようとした矢先に、クラリーチェの瞳から、ぽろりと熱い雫が零れ落ちた。
驚いて顔を上げると、雫がニつ、三つと次々に滑り落ちていく。
どうして自分が泣いているのか、クラリーチェ自身が一番驚いていた。
その様子を見て困ったようにエドアルドが自分のポケットからハンカチーフを取り出すとクラリーチェの目元をそっと拭った。

「どうやら、私はまた貴女を泣かせてしまったようだな。………ではお詫びに………」

そう呟くと、エドアルドは悪びれる様子もなく、クラリーチェの桜色の唇に己のそれを押し当てた。

「…………っ!」

自分で口付けをねだった癖に、それよりも先に自分の方から口付けを仕掛けてくるという信じ難い行動に、クラリーチェは流石に動揺を隠せなかった。

「ここは、オズヴァルド随一の大聖堂だからな。やはりを取るべきだろう?」

先程までの憂いを帯びた表情はすっかりなりを潜め、代わりに甘く蕩けるような視線を送るエドアルドに、クラリーチェは耳まで真っ赤にして、思わず俯いたのだった。
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