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番外編
初夜(2)
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湯浴みを終えると、リディアとアンナが薔薇の香油を全身に塗り込んで丁寧にマッサージしてくれた。
一週間前からこの日のために念入りに手入れされたクラリーチェの肌は極上の仕上がりで、銀色の髪も、まるで本物の銀細工の様に光り輝いていた。
「夜着って………これ………?」
満面の笑みを浮かべたアンナから『初夜を迎える花嫁用の夜着』を受け取ったクラリーチェは、それを見つめて少し困惑したような表情を浮かべた。
それは、確かに夜着だった。
花嫁らしく純白で、寝ている間に身につけるには勿体ないくらいにふんだんにレースが使われている。
しかし、普段身につけているものよりも薄手で、襟ぐりが大きく開いており、何より胸元にあしらわれた水色のリボンを解くと全てがはだけてしまうというデザインのものだった。
「クラリーチェ様の為に作らせた特注品です。陛下もさぞかしお喜びになりますよ」
リディアからのダメ押しの一言に、クラリーチェはほんのりと頬を染めながら袖を通した。
「何てお美しいのでしょう………!」
「まるで月夜を統べる女神ですね。リリアーナ様にご覧頂けないのが残念ですわ」
特注品、というのは納得できた。
クラリーチェの華奢な体を、魅力的に見せてくれるようなデザインになっている。
「………さあ、私達はそろそろ失礼いたしますね。クラリーチェ様、頑張って下さいませ」
「え、ええ………ありがとう………」
不安気に夜着の裾を摘みながら、クラリーチェは足早に部屋を去っていく侍女達を見送る。
「何を、どう頑張ればいいのかしら………」
ほうっと吐息を零すと、クラリーチェはどうすればいいのかわからずに部屋の中を行ったり来たりしていた。
ふとベッドに視線を移すと、一面に薔薇の花が散らされているのが目に入る。
まるで流行りの恋物語に出てくるような演出に、クラリーチェは気恥ずかしさを感じ、ベッドの隅にちょこんと腰掛けると、その薔薇の一つを手に取った、その時だった。
「………待たせてしまったか?」
扉をノックする音が聞こえたのとほぼ同時に、エドアルドが入ってきた。
「え?あ……、いえっ!」
ぱっと顔を上げると、ガウンを羽織っただけのエドアルドと目が合う。
いつもは胸元まできっちりと釦を止めているエドアルドの肌が、ガウンの襟から覗いていて、クラリーチェは胸が高鳴るのを感じた。
「クラリーチェ………立って、見せてくれないか?」
甘く、掠れた声でエドアルドが囁くと、クラリーチェは薄っすらと頬を染めながら立ち上がった。
「………………っ」
恥ずかしそうに、視線を彷徨わせながら、『初夜を迎える花嫁に相応しい夜着』を纏ったクラリーチェが立ち上がると、エドアルドは思わず息を呑んだ。
一糸乱れぬ、腰まである銀色の髪は月明かりを纏って煌めき、髪と同じ色の長い睫毛は淡い紫色の瞳を縁取って目元に影を作っている。
瑞々しい薄桃色の唇は僅かに弧を描き、エドアルドを誘っているようだ。
そして、か細い首から続く透き通るほどに白い肌が覗く胸元は白いレースと水色のリボンで飾られていた。
踝までは夜着で覆われているのに、生地が薄いせいか、月明かりでもクラリーチェの体の線がはっきりと透けて見えていた。
その様を見て、一気に理性が吹き飛びそうになるのを、エドアルドは持ち前の精神力で何とか制したのだった。
一週間前からこの日のために念入りに手入れされたクラリーチェの肌は極上の仕上がりで、銀色の髪も、まるで本物の銀細工の様に光り輝いていた。
「夜着って………これ………?」
満面の笑みを浮かべたアンナから『初夜を迎える花嫁用の夜着』を受け取ったクラリーチェは、それを見つめて少し困惑したような表情を浮かべた。
それは、確かに夜着だった。
花嫁らしく純白で、寝ている間に身につけるには勿体ないくらいにふんだんにレースが使われている。
しかし、普段身につけているものよりも薄手で、襟ぐりが大きく開いており、何より胸元にあしらわれた水色のリボンを解くと全てがはだけてしまうというデザインのものだった。
「クラリーチェ様の為に作らせた特注品です。陛下もさぞかしお喜びになりますよ」
リディアからのダメ押しの一言に、クラリーチェはほんのりと頬を染めながら袖を通した。
「何てお美しいのでしょう………!」
「まるで月夜を統べる女神ですね。リリアーナ様にご覧頂けないのが残念ですわ」
特注品、というのは納得できた。
クラリーチェの華奢な体を、魅力的に見せてくれるようなデザインになっている。
「………さあ、私達はそろそろ失礼いたしますね。クラリーチェ様、頑張って下さいませ」
「え、ええ………ありがとう………」
不安気に夜着の裾を摘みながら、クラリーチェは足早に部屋を去っていく侍女達を見送る。
「何を、どう頑張ればいいのかしら………」
ほうっと吐息を零すと、クラリーチェはどうすればいいのかわからずに部屋の中を行ったり来たりしていた。
ふとベッドに視線を移すと、一面に薔薇の花が散らされているのが目に入る。
まるで流行りの恋物語に出てくるような演出に、クラリーチェは気恥ずかしさを感じ、ベッドの隅にちょこんと腰掛けると、その薔薇の一つを手に取った、その時だった。
「………待たせてしまったか?」
扉をノックする音が聞こえたのとほぼ同時に、エドアルドが入ってきた。
「え?あ……、いえっ!」
ぱっと顔を上げると、ガウンを羽織っただけのエドアルドと目が合う。
いつもは胸元まできっちりと釦を止めているエドアルドの肌が、ガウンの襟から覗いていて、クラリーチェは胸が高鳴るのを感じた。
「クラリーチェ………立って、見せてくれないか?」
甘く、掠れた声でエドアルドが囁くと、クラリーチェは薄っすらと頬を染めながら立ち上がった。
「………………っ」
恥ずかしそうに、視線を彷徨わせながら、『初夜を迎える花嫁に相応しい夜着』を纏ったクラリーチェが立ち上がると、エドアルドは思わず息を呑んだ。
一糸乱れぬ、腰まである銀色の髪は月明かりを纏って煌めき、髪と同じ色の長い睫毛は淡い紫色の瞳を縁取って目元に影を作っている。
瑞々しい薄桃色の唇は僅かに弧を描き、エドアルドを誘っているようだ。
そして、か細い首から続く透き通るほどに白い肌が覗く胸元は白いレースと水色のリボンで飾られていた。
踝までは夜着で覆われているのに、生地が薄いせいか、月明かりでもクラリーチェの体の線がはっきりと透けて見えていた。
その様を見て、一気に理性が吹き飛びそうになるのを、エドアルドは持ち前の精神力で何とか制したのだった。
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