冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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番外編

初夜(1)

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初夜。
それは結婚した夫婦が最初に迎える夜。

サント・クルーチェ大聖堂での結婚式を終えてから、王宮では盛大な晩餐会が開かれた。
隣国オズヴァルドのリベラート王太子夫妻をはじめとした国賓や、国内の有力貴族を招いた晩餐会は大いに盛り上がったが、クラリーチェは中々集中出来なかった。

「正式な婚姻を結ぶまでは一線は越えないと決めている」

最初の開港祭の夜、エドアルドはクラリーチェにそう告げた。
彼の決心を知ったクラリーチェは、それだけ彼が自分を大切に思ってくれていることがとても嬉しかったが、その一方で結婚式が近付いてくると、初夜の事を意識してしまっている自分に気が付いた。

「クラリーチェ様、そろそろ………」

クラリーチェがカトラリーを置いたタイミングを見計らって、後ろに控えたリディアが声を退席の合図をくれた。

「初夜を迎える花嫁は、支度に時間が掛かりますので、頃合いを見計らって合図を送りますね」

晩餐会用のドレスに着替える最中、そうリディアから告げられて、クラリーチェは真っ赤になった。

「初夜の、支度………?」

支度とは、具体的に何をどうするのだろうか。
何故か満面の笑みを浮かべるリディアとアンナに、クラリーチェは尋ねることが出来なかった。



部屋に戻ると、待ち受けていたアンナ達により一瞬でドレスを脱がされてしまった。

「さあ、クラリーチェ様。まずは湯浴みを済ませましょう!」

妙に張り切った様子の侍女達に担がれるように浴室へと移動すると、薔薇の花びらがふんだんに散らされた湯船へと体を沈めた。

「さあ、今夜は長丁場になりますから、今のうちにゆったりと寛いで下さいませ」
「な、長丁場………っ?」

恐ろしい響きの言葉にクラリーチェは思わず上ずった声を上げた。

「陛下もされてらっしゃいましたからね」
「本当に………。ようやく、陛下も報われますわね」

浴槽を取り囲む侍女達が、口々にそんな事を言い始めると、クラリーチェは段々と不安になってきた。

(私………エドアルド様にご満足いただけるかしら………?)

フィリッポ王の側妃だった頃、廊下で立ち話をしている別の側妃達が『誰が一番の床上手で、フィリッポを満足させられるか』という話題で盛り上がっているのを聞いたことがあった。
どうすれば男が悦ぶか、どうすればより長く愉しめるかなどという下世話な話の内容で、名ばかり側妃の自分には関係のない話だと思っていたのに、よもやその話を聞かなかった事を後悔する日が来るとは思いもしなかった。

「私はどうすれば、エドアルド様を悦ばせられるかしら………?」

思わず、そんな言葉が口から零れた。
すると、一同はきょとんとしてクラリーチェを見、そして一斉に笑顔を見せた。

「「「何もしなくて、大丈夫です」」」

クラリーチェは、呆然としながら侍女たちを眺めた。
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