冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

213.お忍び

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てっきり、城の中庭でも散歩するのかと考えていたが、エドアルドはクラリーチェを横抱きにしたかと思うと、あろうことか、そのままバルコニーに足をかけてひらりと階下まで飛び降りた。

「きゃあっ」

エドアルドの信じられない行動に、クラリーチェは思わず悲鳴を上げた。

クラリーチェの部屋は二階部分に位置している。
そのバルコニーから飛び降りたのだから、かなりの高さがある。
にもかかわらず、まるで小川を飛び越えただけのような身軽さで着地をしてみせた。

「怖かったか?」

怯えた様子を見せたクラリーチェに、少しいたずらっぽい笑みを浮かべたエドアルドが、あやすようにクラリーチェの額に自分の額をくっつけた。

「あ、………当たり前ですっ」
「ははっ、それはすまなかったな」

動揺のあまりに、いつもよりも少し強い言葉が口をついて出てしまう。
しかしエドアルドはそれを気にすることなく、愉しそうに笑うと、エドアルドはそのままクラリーチェを抱えて厩舎へと向かい、慣れた手付きで一頭の馬の背にクラリーチェを乗せた。

「あの………っ?」
「喋るな。舌を噛むぞ。………振り落とされないように、しっかりと私に掴まっていろ」

馬に乗るのももちろん初めてのクラリーチェは、馬の背の高さに驚き、思わずぎゅっとエドアルドにしがみついた。
手綱を握りながらも、クラリーチェが振り落とされないようにしっかりと抱き締めると、エドアルドは馬を駆った。

馬車での移動に比べて、風を遮るものがない分、速く感じられた。
景色が、飛ぶように流れていく。
途中で門番達に止められそうになったが、エドアルドが『すぐに戻る』とだけ告げ、強行突破してしまった。

リディアやアンナ、それにダンテら護衛騎士達に心配をかけるのではと、今更ながらクラリーチェは不安を覚えたが、エドアルドとてそんなことは分かっていてクラリーチェを誘い出したのだろう。
『お忍び』と宣言していた所をみれば、今宵の月見については、ラファエロ達は知っているのだろう。

クラリーチェがあれこれ考えているうちに、目的地へと着いたらしかった。

「さあ、着いたぞ」

エドアルドがゆっくりと馬を止め、背から降りると、クラリーチェをまた抱え上げた。

「ここは…………」

エドアルドに降ろされた場所は、王都の外れにある草原だった。
そう。エドアルドがクラリーチェを連れてきたのは、二人が初めて出会った場所だ。
クラリーチェは驚いたように目を見開いた後、手で口元を覆ったのだった。
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