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本編
211.花冠
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まるで時が止まってしまったかのように、二人は互いを見つめ合う。
「全ての憂いを、取り除くと言っただろう?」
その言葉に、クラリーチェははっとした。
エドアルドは、クラリーチェの気持ちを全て知っていたのだと、その瞬間に悟る。
クラリーチェの胸の中がみるみる温かいもので満たされていく。
「どう………して………?」
それだけの言葉を紡ぐのが、精一杯だった。
そんなクラリーチェの手を取ると、エドアルドは左手の薬指に光る指輪にそっと口付けを落とす。
「あんなに、独占欲丸出しの眼差しを向けられたら、いくら女心に疎い私でも気がつくさ」
クラリーチェにだけ聞こえるような小さな声でそう囁くと、クラリーチェは恥ずかしさに俯いた。
「それに、妃になって欲しいとか、私が生涯を共にするのはクラリーチェだけとは伝えたが、『結婚しよう』としっかり伝えていなかったことに気がついたんだ。どうせ結婚の申込みをするのなら、これ以上の舞台はないだろう?」
そう言って、エドアルドはどこに隠していたのか、淡い紫と水色の花で彩られた花冠を取り出し、クラリーチェの頭に載せた。
堪えきれなくなった気持ちが、堰を切ったように溢れ出す。
水色と淡い紫色。二人の色彩で彩られた花冠が示すのは、終わりのない、未来。
「さあ、愛しい人。答えを、聞かせてくれ」
エドアルドの靭やかな指が、クラリーチェの涙をそっと拭うと、顔を覗き込む。
彼の深くて優しいひたむきな愛に、どうしたら応えられるだろう。
クラリーチェの全てを支配する、胸を焦がすようなこの想いを、どうしたら彼に伝えられるだろう。
………答えは、ただ一つだった。
クラリーチェは花冠から一本の花を抜き取ると、祈りを込めてエドアルドの真っ白な式典服の胸元に挿した。
その花は、オキシペタラム。花言葉は、『幸福な愛』。
「勿論です、エドアルド様」
クラリーチェは大輪の花が綻ぶような、それは美しい笑顔を浮かべた。
感極まったような表情を浮かべたエドアルドが、堪らないといったふうにクラリーチェを抱き上げると、そのまま深く口付けた。
途端に拍手喝采が港から沸き起こる。
海との結婚の儀式以上の盛り上がりだった。
「………そろそろ頃合いか」
そんな二人を見守るリベラートが、にやりと嗤うと、すっと右手を上げると声を上げた。
「私からのささやかな祝いだ。受け取れ」
それと同時に、船の漕手や船頭、それに他の船に乗っている者たちが一斉に花びら手にした籠から、花びらを散らした。
潮風に乗った色とりどりの花びらが、空に、海に舞い散っていく光景はとても幻想的だった。
いつの間に用意していたのだろう。
これだけの生花の花びらを用意するのは容易ではないはずだが、リベラートは涼しい顔をしたまま、驚く二人を見つめていた。
「全ての憂いを、取り除くと言っただろう?」
その言葉に、クラリーチェははっとした。
エドアルドは、クラリーチェの気持ちを全て知っていたのだと、その瞬間に悟る。
クラリーチェの胸の中がみるみる温かいもので満たされていく。
「どう………して………?」
それだけの言葉を紡ぐのが、精一杯だった。
そんなクラリーチェの手を取ると、エドアルドは左手の薬指に光る指輪にそっと口付けを落とす。
「あんなに、独占欲丸出しの眼差しを向けられたら、いくら女心に疎い私でも気がつくさ」
クラリーチェにだけ聞こえるような小さな声でそう囁くと、クラリーチェは恥ずかしさに俯いた。
「それに、妃になって欲しいとか、私が生涯を共にするのはクラリーチェだけとは伝えたが、『結婚しよう』としっかり伝えていなかったことに気がついたんだ。どうせ結婚の申込みをするのなら、これ以上の舞台はないだろう?」
そう言って、エドアルドはどこに隠していたのか、淡い紫と水色の花で彩られた花冠を取り出し、クラリーチェの頭に載せた。
堪えきれなくなった気持ちが、堰を切ったように溢れ出す。
水色と淡い紫色。二人の色彩で彩られた花冠が示すのは、終わりのない、未来。
「さあ、愛しい人。答えを、聞かせてくれ」
エドアルドの靭やかな指が、クラリーチェの涙をそっと拭うと、顔を覗き込む。
彼の深くて優しいひたむきな愛に、どうしたら応えられるだろう。
クラリーチェの全てを支配する、胸を焦がすようなこの想いを、どうしたら彼に伝えられるだろう。
………答えは、ただ一つだった。
クラリーチェは花冠から一本の花を抜き取ると、祈りを込めてエドアルドの真っ白な式典服の胸元に挿した。
その花は、オキシペタラム。花言葉は、『幸福な愛』。
「勿論です、エドアルド様」
クラリーチェは大輪の花が綻ぶような、それは美しい笑顔を浮かべた。
感極まったような表情を浮かべたエドアルドが、堪らないといったふうにクラリーチェを抱き上げると、そのまま深く口付けた。
途端に拍手喝采が港から沸き起こる。
海との結婚の儀式以上の盛り上がりだった。
「………そろそろ頃合いか」
そんな二人を見守るリベラートが、にやりと嗤うと、すっと右手を上げると声を上げた。
「私からのささやかな祝いだ。受け取れ」
それと同時に、船の漕手や船頭、それに他の船に乗っている者たちが一斉に花びら手にした籠から、花びらを散らした。
潮風に乗った色とりどりの花びらが、空に、海に舞い散っていく光景はとても幻想的だった。
いつの間に用意していたのだろう。
これだけの生花の花びらを用意するのは容易ではないはずだが、リベラートは涼しい顔をしたまま、驚く二人を見つめていた。
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