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本編
210.海との結婚
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陸地側からは楽隊の演奏と共に人々の歓声が上がる。
音を全身で感じると鳥肌が立つのだと、クラリーチェはこの時初めて知った。
町並みを彩る赤茶色の屋根と青く澄み渡った空が眩しくて、クラリーチェをエドアルドの広い胸に頬を寄せた。
ばさり、とすぐ後ろに控える船がキエザの象徴である青地に白い獅子が描かれた旗を掲げると賑やかに鳴り響く音楽がぴたりと止む。
一気に静寂に包まれたキエザ港内は、打ち寄せる穏やかな波の音が響くだけだ。
「クラリーチェ、すまないが少しだけ待っていてくれ」
おもむろにエドアルドがそう告げると、まるで壊れ物を扱うかのように、大切そうにクラリーチェを自分の膝から降ろして隣に座らせた。
黙ったままクラリーチェが頷くと、エドアルドは微笑み、そして用意された花冠と、長いリボンに結わえられた指輪を手にして立ち上がった。
そして祝祭船の船首部分まで移動した。
いよいよ、海との結婚の儀式が始まる。
流石のエドアルドの顔にも緊張が浮かんでいた。
「海よ。我は汝と結婚せり。永遠に、汝が我と共にあるように」
右手に指輪を、そして左手に花冠を持ち、それが観衆にも見えるように高々と掲げると、低くてよく通る声を張り上げて堂々とそう宣言した。
その声が空に消えていくと、花冠と指輪を海へと投げ入れた。
儀式に臨むエドアルドがどうしょうもなく眩しくて、クラリーチェは海への嫉妬を隠すようにエドアルドから目を背けた。
観衆から大きな歓声と共に、拍手が沸き起こる。
無事に儀式が終わったことに安堵しながらも、自分の中の醜い感情を上手く消化できない。
クラリーチェは何故か泣き出したくなって、それを我慢しようと目を瞑った。その時だった。
「クラリーチェ」
突然エドアルドに呼ばれて、驚いて顔を上げる。
「来い」
満面の笑顔で、船首からエドアルドが両手を広げて呼びかけていた。
「あの、儀式は終わりではないのですか?」
自分が何故その場に呼ばれるのかが分からず、戸惑いながら立ち上がる。
「いいからここまで来てほしい」
国王が乗船する祝祭船は、海との結婚の儀式のために船首部分が舞台のようになっている。
クラリーチェは躊躇いながらもエドアルドの待つ船首部分へ足をかけた。
「あの…………?」
「今の結婚の宣言は、『キエザ国王』としての宣言だ」
分かりきった事を、エドアルドはわざわざ口にする。一体何が言いたいのだろうとクラリーチェは首を傾げた。
「そして、『エドアルド・レアーレ・キエザ』個人として………クラリーチェ・ジャクウィント、私は貴女と結婚し、生涯を共にしたい」
クラリーチェは、驚きのあまり呼吸すらも忘れてその場に立ち尽くす。
エドアルドの宣言を聞いた観衆から、先程よりも更に大きな歓声が送られているのすらも、全く耳に届かない。
ただ大きく見開いた淡い紫色の瞳でエドアルドを見上げると、大好きな水色が優しく彼女を見つめていた。
音を全身で感じると鳥肌が立つのだと、クラリーチェはこの時初めて知った。
町並みを彩る赤茶色の屋根と青く澄み渡った空が眩しくて、クラリーチェをエドアルドの広い胸に頬を寄せた。
ばさり、とすぐ後ろに控える船がキエザの象徴である青地に白い獅子が描かれた旗を掲げると賑やかに鳴り響く音楽がぴたりと止む。
一気に静寂に包まれたキエザ港内は、打ち寄せる穏やかな波の音が響くだけだ。
「クラリーチェ、すまないが少しだけ待っていてくれ」
おもむろにエドアルドがそう告げると、まるで壊れ物を扱うかのように、大切そうにクラリーチェを自分の膝から降ろして隣に座らせた。
黙ったままクラリーチェが頷くと、エドアルドは微笑み、そして用意された花冠と、長いリボンに結わえられた指輪を手にして立ち上がった。
そして祝祭船の船首部分まで移動した。
いよいよ、海との結婚の儀式が始まる。
流石のエドアルドの顔にも緊張が浮かんでいた。
「海よ。我は汝と結婚せり。永遠に、汝が我と共にあるように」
右手に指輪を、そして左手に花冠を持ち、それが観衆にも見えるように高々と掲げると、低くてよく通る声を張り上げて堂々とそう宣言した。
その声が空に消えていくと、花冠と指輪を海へと投げ入れた。
儀式に臨むエドアルドがどうしょうもなく眩しくて、クラリーチェは海への嫉妬を隠すようにエドアルドから目を背けた。
観衆から大きな歓声と共に、拍手が沸き起こる。
無事に儀式が終わったことに安堵しながらも、自分の中の醜い感情を上手く消化できない。
クラリーチェは何故か泣き出したくなって、それを我慢しようと目を瞑った。その時だった。
「クラリーチェ」
突然エドアルドに呼ばれて、驚いて顔を上げる。
「来い」
満面の笑顔で、船首からエドアルドが両手を広げて呼びかけていた。
「あの、儀式は終わりではないのですか?」
自分が何故その場に呼ばれるのかが分からず、戸惑いながら立ち上がる。
「いいからここまで来てほしい」
国王が乗船する祝祭船は、海との結婚の儀式のために船首部分が舞台のようになっている。
クラリーチェは躊躇いながらもエドアルドの待つ船首部分へ足をかけた。
「あの…………?」
「今の結婚の宣言は、『キエザ国王』としての宣言だ」
分かりきった事を、エドアルドはわざわざ口にする。一体何が言いたいのだろうとクラリーチェは首を傾げた。
「そして、『エドアルド・レアーレ・キエザ』個人として………クラリーチェ・ジャクウィント、私は貴女と結婚し、生涯を共にしたい」
クラリーチェは、驚きのあまり呼吸すらも忘れてその場に立ち尽くす。
エドアルドの宣言を聞いた観衆から、先程よりも更に大きな歓声が送られているのすらも、全く耳に届かない。
ただ大きく見開いた淡い紫色の瞳でエドアルドを見上げると、大好きな水色が優しく彼女を見つめていた。
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