冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

209.航行

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海上の日差しは強く、頬を撫ぜる潮風と船体にぶつかって弾ける細かな波飛沫が心地よかった。
クラリーチェがうっとりと目を細めると、エドアルドが愛おしそうにその頬に触れた。
港を出ると人々の歓声は遠のき、海鳥の鳴き声と波がさざめく音が大きくなる。

「本当に、穏やかな船旅だな」

鼻先が触れそうなほどに顔を近づけて、エドアルドが囁く。

「ええ。陽の光を水面が跳ね返して、波も祭を祝っているようですね」
「そうだな」

甘い微笑みを湛えたエドアルドは堂々としているのに、何故かそわそわとしているように見えた。
この航行の終わりに、最大の見せ場である『海との結婚』の儀式が待っているからだろう。

クラリーチェは一ヶ月前に、その儀式でエドアルドが海との結婚を宣言するのが嫌だと思った自分を恥じたが、また同じように………いや、前回以上にその台詞をエドアルドに口にして欲しくないと思ってしまう自分に気がついた。

(エドアルド様は国王。決して私一人のエドアルド様ではないのに、私は何処まで強欲になったのかしら)

少しでも気持ちを紛らわせようとして、ゆっくりと深呼吸をすると、すぐにエドアルドが気がついた。

「船酔いでもしたか?」
「あ、いえ………。そうではないのです。少し、物思いに耽っていただけですわ」

どうすれば、平常心でいられるのだろう。
仮に今年の祭を乗り切ったとしても、毎年その湧き上がる黒い気持ちと闘わなくてはいけないと思うと、いたたまれない気持ちになった。

そうこうしているうちに、祝祭船ブチントーロは旋回を始め、滑るように波の上を進んでいく。
港が近づくにつれて、今度はが脳裏に蘇りそうになり、クラリーチェは暗い気持ちを振り払うようにエドアルドにしがみついた。
もう大丈夫とわかっているのに、体が強張ってしまい、どうしていいのか分からなくて取った行動だった。

「珍しいな、貴女が甘えてくるなんて」

少し驚いたようにエドアルドが呟くと、まるでクラリーチェの心を読みとったかのように、優しく囁いた。

「…………大丈夫だ。もう貴女が不安に思うことは何一つない」

エドアルドはクラリーチェの額に口つけを一つ落とすと、港の入口に船が到着するまでの間、クラリーチェを宥めるように抱き締めるのだった。

段々と船が速度を落とし、港の真正面で停止する。
進んでいる時とは違い、波のうねりに合わせるように、船が揺れ動く。
後続の船は等間隔で停船し、エドアルド達の乗る祝祭船ブチントーロを降り囲むように、整列した。
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