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本編
208.出航
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港は既に沢山の人でごった返していた。
人の熱気と強い日差しで圧倒されそうだった。
それでも、エドアルドにこれ以上恥をかかせるわけにはいかないと、クラリーチェはしっかりと背筋を伸ばし、口元には僅かに笑みを湛えたままで式典の始まりを待つ。
あちこちから向けられる視線にも慣れてきた頃、笛が祭の始まりを賑やかに告げた。
一ヶ月前のあの日と同じ筈なのに、どうしてこんなにも高揚感に包まれるのだろうとクラリーチェは不思議に思う。
「本当に、絶好の祭り日和だな」
眩しそうに空を仰いだエドアルドの表情も、空に負けないくらいに晴れやかだった。
司祭の祈りの言葉の後に、エドアルドが集まった観客に向けて短いスピーチを行った。
前回は船に乗るときに失敗して、エドアルドに抱き上げられたのを思い出し、クラリーチェはほんのりと頬を桃色に染めた。と。
スピーチが終わった途端にエドアルドはクラリーチェを抱き上げ、先頭の祝祭船へと向かったのだ。
「エ………エドアルド様………っ?」
クラリーチェは動揺のあまり声が裏返った。
祝祭船まで距離がある訳ではないが、エドアルドに抱き上げられた状態で移動するなどということはい聞いておらず、全く心の準備が出来ていないクラリーチェはエドアルドの腕の中で硬直するしかなかった。………尤も、心の準備が出来ていたとしてもあまり変わらないだろうが。
「しっかりと、掴まっていろ。もう二度と貴女を危ない目に遭わせることはしないと決めたからな」
にやりと笑うエドアルドの水色の双眸が、強い日差しを浴びて煌めいた。
「………まあ、それは建前であって、本当はただクラリーチェは私のものだと知らしめたいだけだ」
「…………!」
クラリーチェは恥ずかしさのあまり俯いた。
ちょうどエドアルドが船に乗り込むのと重なり、透き通った美しい海面が目に入った。
「………怖くは、ないか?」
優しいエドアルドの声が、クラリーチェの耳元で囁いた。
あの日の事故を思い出して俯いたのだと思ったらしかった。
「大丈夫です。………あら?この船は、私達しか乗らないのですか?」
「ああ。この前の事故のこともあるが、大規模な粛清を行ったせいで乗船する貴族の数がかなり減ったからな。この船には私達、後続の船に司祭達、その後ろがリベラートやラファエロ達だ。護衛もそれぞれ小回りの聞く小さなゴンドラに乗船させているから心配ないぞ」
得意げにエドアルドが説明するのを見て、クラリーチェは納得したように微笑んだ。
「出航ー!」
大きな歓声が上がり、紺碧の波を掻き分けながら、エドアルドとクラリーチェを乗せた祝祭船が、ゆっくりと進み始めた。
人の熱気と強い日差しで圧倒されそうだった。
それでも、エドアルドにこれ以上恥をかかせるわけにはいかないと、クラリーチェはしっかりと背筋を伸ばし、口元には僅かに笑みを湛えたままで式典の始まりを待つ。
あちこちから向けられる視線にも慣れてきた頃、笛が祭の始まりを賑やかに告げた。
一ヶ月前のあの日と同じ筈なのに、どうしてこんなにも高揚感に包まれるのだろうとクラリーチェは不思議に思う。
「本当に、絶好の祭り日和だな」
眩しそうに空を仰いだエドアルドの表情も、空に負けないくらいに晴れやかだった。
司祭の祈りの言葉の後に、エドアルドが集まった観客に向けて短いスピーチを行った。
前回は船に乗るときに失敗して、エドアルドに抱き上げられたのを思い出し、クラリーチェはほんのりと頬を桃色に染めた。と。
スピーチが終わった途端にエドアルドはクラリーチェを抱き上げ、先頭の祝祭船へと向かったのだ。
「エ………エドアルド様………っ?」
クラリーチェは動揺のあまり声が裏返った。
祝祭船まで距離がある訳ではないが、エドアルドに抱き上げられた状態で移動するなどということはい聞いておらず、全く心の準備が出来ていないクラリーチェはエドアルドの腕の中で硬直するしかなかった。………尤も、心の準備が出来ていたとしてもあまり変わらないだろうが。
「しっかりと、掴まっていろ。もう二度と貴女を危ない目に遭わせることはしないと決めたからな」
にやりと笑うエドアルドの水色の双眸が、強い日差しを浴びて煌めいた。
「………まあ、それは建前であって、本当はただクラリーチェは私のものだと知らしめたいだけだ」
「…………!」
クラリーチェは恥ずかしさのあまり俯いた。
ちょうどエドアルドが船に乗り込むのと重なり、透き通った美しい海面が目に入った。
「………怖くは、ないか?」
優しいエドアルドの声が、クラリーチェの耳元で囁いた。
あの日の事故を思い出して俯いたのだと思ったらしかった。
「大丈夫です。………あら?この船は、私達しか乗らないのですか?」
「ああ。この前の事故のこともあるが、大規模な粛清を行ったせいで乗船する貴族の数がかなり減ったからな。この船には私達、後続の船に司祭達、その後ろがリベラートやラファエロ達だ。護衛もそれぞれ小回りの聞く小さなゴンドラに乗船させているから心配ないぞ」
得意げにエドアルドが説明するのを見て、クラリーチェは納得したように微笑んだ。
「出航ー!」
大きな歓声が上がり、紺碧の波を掻き分けながら、エドアルドとクラリーチェを乗せた祝祭船が、ゆっくりと進み始めた。
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