133 / 268
本編
208.出航
しおりを挟む
港は既に沢山の人でごった返していた。
人の熱気と強い日差しで圧倒されそうだった。
それでも、エドアルドにこれ以上恥をかかせるわけにはいかないと、クラリーチェはしっかりと背筋を伸ばし、口元には僅かに笑みを湛えたままで式典の始まりを待つ。
あちこちから向けられる視線にも慣れてきた頃、笛が祭の始まりを賑やかに告げた。
一ヶ月前のあの日と同じ筈なのに、どうしてこんなにも高揚感に包まれるのだろうとクラリーチェは不思議に思う。
「本当に、絶好の祭り日和だな」
眩しそうに空を仰いだエドアルドの表情も、空に負けないくらいに晴れやかだった。
司祭の祈りの言葉の後に、エドアルドが集まった観客に向けて短いスピーチを行った。
前回は船に乗るときに失敗して、エドアルドに抱き上げられたのを思い出し、クラリーチェはほんのりと頬を桃色に染めた。と。
スピーチが終わった途端にエドアルドはクラリーチェを抱き上げ、先頭の祝祭船へと向かったのだ。
「エ………エドアルド様………っ?」
クラリーチェは動揺のあまり声が裏返った。
祝祭船まで距離がある訳ではないが、エドアルドに抱き上げられた状態で移動するなどということはい聞いておらず、全く心の準備が出来ていないクラリーチェはエドアルドの腕の中で硬直するしかなかった。………尤も、心の準備が出来ていたとしてもあまり変わらないだろうが。
「しっかりと、掴まっていろ。もう二度と貴女を危ない目に遭わせることはしないと決めたからな」
にやりと笑うエドアルドの水色の双眸が、強い日差しを浴びて煌めいた。
「………まあ、それは建前であって、本当はただクラリーチェは私のものだと知らしめたいだけだ」
「…………!」
クラリーチェは恥ずかしさのあまり俯いた。
ちょうどエドアルドが船に乗り込むのと重なり、透き通った美しい海面が目に入った。
「………怖くは、ないか?」
優しいエドアルドの声が、クラリーチェの耳元で囁いた。
あの日の事故を思い出して俯いたのだと思ったらしかった。
「大丈夫です。………あら?この船は、私達しか乗らないのですか?」
「ああ。この前の事故のこともあるが、大規模な粛清を行ったせいで乗船する貴族の数がかなり減ったからな。この船には私達、後続の船に司祭達、その後ろがリベラートやラファエロ達だ。護衛もそれぞれ小回りの聞く小さなゴンドラに乗船させているから心配ないぞ」
得意げにエドアルドが説明するのを見て、クラリーチェは納得したように微笑んだ。
「出航ー!」
大きな歓声が上がり、紺碧の波を掻き分けながら、エドアルドとクラリーチェを乗せた祝祭船が、ゆっくりと進み始めた。
人の熱気と強い日差しで圧倒されそうだった。
それでも、エドアルドにこれ以上恥をかかせるわけにはいかないと、クラリーチェはしっかりと背筋を伸ばし、口元には僅かに笑みを湛えたままで式典の始まりを待つ。
あちこちから向けられる視線にも慣れてきた頃、笛が祭の始まりを賑やかに告げた。
一ヶ月前のあの日と同じ筈なのに、どうしてこんなにも高揚感に包まれるのだろうとクラリーチェは不思議に思う。
「本当に、絶好の祭り日和だな」
眩しそうに空を仰いだエドアルドの表情も、空に負けないくらいに晴れやかだった。
司祭の祈りの言葉の後に、エドアルドが集まった観客に向けて短いスピーチを行った。
前回は船に乗るときに失敗して、エドアルドに抱き上げられたのを思い出し、クラリーチェはほんのりと頬を桃色に染めた。と。
スピーチが終わった途端にエドアルドはクラリーチェを抱き上げ、先頭の祝祭船へと向かったのだ。
「エ………エドアルド様………っ?」
クラリーチェは動揺のあまり声が裏返った。
祝祭船まで距離がある訳ではないが、エドアルドに抱き上げられた状態で移動するなどということはい聞いておらず、全く心の準備が出来ていないクラリーチェはエドアルドの腕の中で硬直するしかなかった。………尤も、心の準備が出来ていたとしてもあまり変わらないだろうが。
「しっかりと、掴まっていろ。もう二度と貴女を危ない目に遭わせることはしないと決めたからな」
にやりと笑うエドアルドの水色の双眸が、強い日差しを浴びて煌めいた。
「………まあ、それは建前であって、本当はただクラリーチェは私のものだと知らしめたいだけだ」
「…………!」
クラリーチェは恥ずかしさのあまり俯いた。
ちょうどエドアルドが船に乗り込むのと重なり、透き通った美しい海面が目に入った。
「………怖くは、ないか?」
優しいエドアルドの声が、クラリーチェの耳元で囁いた。
あの日の事故を思い出して俯いたのだと思ったらしかった。
「大丈夫です。………あら?この船は、私達しか乗らないのですか?」
「ああ。この前の事故のこともあるが、大規模な粛清を行ったせいで乗船する貴族の数がかなり減ったからな。この船には私達、後続の船に司祭達、その後ろがリベラートやラファエロ達だ。護衛もそれぞれ小回りの聞く小さなゴンドラに乗船させているから心配ないぞ」
得意げにエドアルドが説明するのを見て、クラリーチェは納得したように微笑んだ。
「出航ー!」
大きな歓声が上がり、紺碧の波を掻き分けながら、エドアルドとクラリーチェを乗せた祝祭船が、ゆっくりと進み始めた。
22
お気に入りに追加
7,152
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!
金峯蓮華
恋愛
*第16回恋愛小説大賞で優秀賞をいただきました。
これも皆様の応援のお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ありがとうございました。
昔、私がまだ子供だった頃、我が国では国家を揺るがす大事件があったそうだ。
王太子や側近達が魅了の魔法にかかり、おかしくなってしまった。
悪事は暴かれ、魅了の魔法は解かれたが、王太子も側近たちも約束されていた輝かしい未来を失った。
「なんで、私がそんな人と結婚しなきゃならないのですか?」
「仕方ないのだ。国王に頭を下げられたら断れない」
気の弱い父のせいで年の離れた元王太子に嫁がされることになった。
も〜、勘弁してほしいわ。
私の未来はどうなるのよ〜
*ざまぁのあとの緩いご都合主義なお話です*
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。