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本編
206.開港祭の朝
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その日は、空と海との境界線が分からないくらいに澄み渡って、どちらも美しい青色を湛えていた。
本来は初夏に開催される開港祭が、一ヶ月遅れで再開催されるとあって、国内は勿論のこと、他国からも見物客が大勢訪れているらしい。
「とても賑やかね。ここまで港の活気が伝わってくるわ」
リディアとアンナに支度をしてもらいながら、開け放たれた窓の方を見てクラリーチェが微笑む。
「そうですね。素晴らしいお天気に恵まれて、絶好の船旅日和ですし、きっとこの上なく素敵な開港祭になりますよ」
潮風の中に含まれる夏の匂いが心地よくて、クラリーチェは深呼吸をした。
そんなクラリーチェの様子に、リディアもアンナも柔らかな微笑みを浮かべた。
「本日は、前回の開港祭の時よりもさらに気合を入れてお支度させて頂きました。………ふふ、クラリーチェ様のお供が出来るのがとても楽しみですわ」
「私もです!陛下の反応も、気になるところですよね」
「………?私も、リディアとアンナと一緒に参加出来て、嬉しいわ」
二人が浮かべた微笑みの裏に、何かを感じて不思議に思ったものの、クラリーチェは紅を纏った唇で美しい弧を描くに留めると、改めて鏡に写る自分の姿を見つめた。
気合を入れて支度をした、というのは何となくわかる気がする。
夏の強い日差しを考慮した、胸元や袖に至るまで繊細なレースと刺繍をふんだんにあしらった溜息が出るほど美しい水色のドレスは、エドアルドの瞳の色を忠実に反映し、刺繍糸に使われた金糸も同じくエドアルドの金髪を再現している。
念入りに手入れがされた銀髪は緩く巻かれて結い上げられ、黄色い薔薇と水色の小花で飾られ、それだけで宝飾品のようだった。
そして、クラリーチェの事を知り尽くした侍女二人が計算に計算を重ねた、決して濃くはないのに、クラリーチェの魅力を最大限に引き出すような化粧が施されている。
今日の自分が、ジャクウィント侯爵邸で目にした在りし日の母マリエッタと驚くほど似ていて、クラリーチェは何故だか胸の奥が熱くなるのを感じた。
今日の装いは、前回いくら仕組まれた事故とはいえ、船から転落するという失態を晒したクラリーチェの名誉挽回を図るためだろうとクラリーチェは思った。
ならばその想いに応えなければ。
クラリーチェは鏡の中の自分自身に対して、檄を飛ばした。
「…………さあ、陛下がお待ちです。参りましょうか、クラリーチェ様」
リディアの手で扉が開け放たれると、優しい風が部屋の中を駆け抜けた。
本来は初夏に開催される開港祭が、一ヶ月遅れで再開催されるとあって、国内は勿論のこと、他国からも見物客が大勢訪れているらしい。
「とても賑やかね。ここまで港の活気が伝わってくるわ」
リディアとアンナに支度をしてもらいながら、開け放たれた窓の方を見てクラリーチェが微笑む。
「そうですね。素晴らしいお天気に恵まれて、絶好の船旅日和ですし、きっとこの上なく素敵な開港祭になりますよ」
潮風の中に含まれる夏の匂いが心地よくて、クラリーチェは深呼吸をした。
そんなクラリーチェの様子に、リディアもアンナも柔らかな微笑みを浮かべた。
「本日は、前回の開港祭の時よりもさらに気合を入れてお支度させて頂きました。………ふふ、クラリーチェ様のお供が出来るのがとても楽しみですわ」
「私もです!陛下の反応も、気になるところですよね」
「………?私も、リディアとアンナと一緒に参加出来て、嬉しいわ」
二人が浮かべた微笑みの裏に、何かを感じて不思議に思ったものの、クラリーチェは紅を纏った唇で美しい弧を描くに留めると、改めて鏡に写る自分の姿を見つめた。
気合を入れて支度をした、というのは何となくわかる気がする。
夏の強い日差しを考慮した、胸元や袖に至るまで繊細なレースと刺繍をふんだんにあしらった溜息が出るほど美しい水色のドレスは、エドアルドの瞳の色を忠実に反映し、刺繍糸に使われた金糸も同じくエドアルドの金髪を再現している。
念入りに手入れがされた銀髪は緩く巻かれて結い上げられ、黄色い薔薇と水色の小花で飾られ、それだけで宝飾品のようだった。
そして、クラリーチェの事を知り尽くした侍女二人が計算に計算を重ねた、決して濃くはないのに、クラリーチェの魅力を最大限に引き出すような化粧が施されている。
今日の自分が、ジャクウィント侯爵邸で目にした在りし日の母マリエッタと驚くほど似ていて、クラリーチェは何故だか胸の奥が熱くなるのを感じた。
今日の装いは、前回いくら仕組まれた事故とはいえ、船から転落するという失態を晒したクラリーチェの名誉挽回を図るためだろうとクラリーチェは思った。
ならばその想いに応えなければ。
クラリーチェは鏡の中の自分自身に対して、檄を飛ばした。
「…………さあ、陛下がお待ちです。参りましょうか、クラリーチェ様」
リディアの手で扉が開け放たれると、優しい風が部屋の中を駆け抜けた。
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