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本編
198.葛藤
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結局謁見の間では軽く挨拶を交わした以外は、クラリーチェとリベラートは言葉を交わさなかった。………エドアルドがそれを赦さなかったと言うのが正しいかもしれない。
険悪、とはいかないまでも、まるで威嚇をするようなエドアルドの態度に対して気を悪くするでもなく、リベラートは対応した。
「兄上………。幾らリベラート相手とはいえ、彼は今回国賓として来ているのです。あの態度は王としての資質を問われますよ」
「む…………、分かっている」
リベラートが謁見の間を去った後、ラファエロが呆れ顔でエドアルドを窘めた。
クラリーチェの事が絡むと、どんどん余裕がなくなる事を自覚し、エドアルドはそんな自分自身に苛立っていた。
エドアルドより三つ年上のリベラートとは幼少の頃から親交があった。
特に、母が亡くなった直後は生後間もないラファエロの事もあり、乳母や教育係と共に一時的にオズヴァルドに身を寄せていた時期があった事もあり、追放した腹違いの兄弟姉妹よりも良好な関係を築いていると言っても良いくらいだった。
洗練された大人の色香を醸し出すリベラートは、同性のエドアルドから見てもかなり魅力的だと感じた。
そんな、彼がクラリーチェに近づいたらクラリーチェの心は動いてしまうかもしれないという危機感から、リベラートに対してあのような態度を取ってしまう自分を、情けなく思った。
「エドアルド様………」
困ったような表情で、クラリーチェがエドアルドを見つめる。
「分かっている。………頼むから、そんな目で見ないでくれ」
自嘲の笑みを浮かべると、エドアルドは俯いた。
「反省しているのであれば、謝罪すべきだと思います。あちらには何の非もありませんもの」
優しい口調で、だがはっきりとクラリーチェが指摘すると、エドアルドはほんの少し、俯いた。
「…………分かっている」
エドアルドは唇を噛むと、玉座から腰を上げた。
「………リベラートは、貴賓室へと案内してありますよ」
「ああ」
短く返事をすると、エドアルドは早足で退出した。
クラリーチェはエドアルドの後を追うべきか迷っていると、ラファエロがエドアルドを追いかけるようにと合図を送った。
(私が行くと、厄介な事にならないのかしら………?)
躊躇ったのは、エドアルドから離れるなと言い含められてはいるが、リベラートと自分が顔を合わせるのをエドアルドが快く思っていないからだった。
ミステリアスで、どこか食えない印象のあるリベラートだったが、クラリーチェは悪い印象は受けなかった。
(でも、大国の王族なのだから、簡単に信用しては駄目よね………)
己を戒めるように心のなかでそう呟くと、クラリーチェはドレスの裾を持ち上げてエドアルドを追った。
険悪、とはいかないまでも、まるで威嚇をするようなエドアルドの態度に対して気を悪くするでもなく、リベラートは対応した。
「兄上………。幾らリベラート相手とはいえ、彼は今回国賓として来ているのです。あの態度は王としての資質を問われますよ」
「む…………、分かっている」
リベラートが謁見の間を去った後、ラファエロが呆れ顔でエドアルドを窘めた。
クラリーチェの事が絡むと、どんどん余裕がなくなる事を自覚し、エドアルドはそんな自分自身に苛立っていた。
エドアルドより三つ年上のリベラートとは幼少の頃から親交があった。
特に、母が亡くなった直後は生後間もないラファエロの事もあり、乳母や教育係と共に一時的にオズヴァルドに身を寄せていた時期があった事もあり、追放した腹違いの兄弟姉妹よりも良好な関係を築いていると言っても良いくらいだった。
洗練された大人の色香を醸し出すリベラートは、同性のエドアルドから見てもかなり魅力的だと感じた。
そんな、彼がクラリーチェに近づいたらクラリーチェの心は動いてしまうかもしれないという危機感から、リベラートに対してあのような態度を取ってしまう自分を、情けなく思った。
「エドアルド様………」
困ったような表情で、クラリーチェがエドアルドを見つめる。
「分かっている。………頼むから、そんな目で見ないでくれ」
自嘲の笑みを浮かべると、エドアルドは俯いた。
「反省しているのであれば、謝罪すべきだと思います。あちらには何の非もありませんもの」
優しい口調で、だがはっきりとクラリーチェが指摘すると、エドアルドはほんの少し、俯いた。
「…………分かっている」
エドアルドは唇を噛むと、玉座から腰を上げた。
「………リベラートは、貴賓室へと案内してありますよ」
「ああ」
短く返事をすると、エドアルドは早足で退出した。
クラリーチェはエドアルドの後を追うべきか迷っていると、ラファエロがエドアルドを追いかけるようにと合図を送った。
(私が行くと、厄介な事にならないのかしら………?)
躊躇ったのは、エドアルドから離れるなと言い含められてはいるが、リベラートと自分が顔を合わせるのをエドアルドが快く思っていないからだった。
ミステリアスで、どこか食えない印象のあるリベラートだったが、クラリーチェは悪い印象は受けなかった。
(でも、大国の王族なのだから、簡単に信用しては駄目よね………)
己を戒めるように心のなかでそう呟くと、クラリーチェはドレスの裾を持ち上げてエドアルドを追った。
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