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本編
195.思わぬ知らせ
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それから大司祭との協議の後、一ヶ月後に開港祭が開催されることが決まった。
その為の準備が慌ただしく始まって間もなく、その知らせが舞い込んだ。
「オズヴァルド王国の、王太子殿下がいらっしゃるのですか………?」
エドアルドは、渋い顔をしながら頷いた。
エドアルドとラファエロの母親であるリオネッラ妃の生国、オズヴァルド。
冶金や織物などが盛んで、北方に聳える巨大な山脈から流れる雪解け水を利用した農業も発展した豊かな国だ。
亡きリオネッラ妃は現オズヴァルド国王の王妹だというのだから、王太子はエドアルド達の従兄弟に当たる筈だ。
その王太子が、開港祭の式典に合わせて訪問を予定しているというのだ。
「………私は、あいつに貴女を逢わせたくないというのが本音だが………」
奥歯をぎりぎりと噛み締めながら、エドアルドが呟いた。
「………私情を、政に持ち込むのは良くありませんわ」
険しい顔を緩めないエドアルドを宥めるように、クラリーチェは微笑んだ。
「分かっている」
苛立ちを隠すように、エドアルドは目を伏せた。
エドアルドがそれほどに拒否反応を示す王太子とは、一体どんな人物なのかという不安と興味が同時にクラリーチェの心に沸き起こった。
「オズヴァルドは、友好国だ。私の体の中にも、オズヴァルドの血が半分流れている。邪険にするつもりはないのだが………。まぁ、はっきり言ってしまえば、オズヴァルド王太子が少々厄介な人物なのだ」
諦めたように、エドアルドは白状した。
「厄介な…………?」
厄介な人物と聞いて、クラリーチェの脳裏には、ジュストが思い浮かんだ。
それを読み取ったかのように、エドアルドは表情を僅かに緩める。
「………あの狂人とは違う。頭脳明晰で、剣の腕もたつ、人当たりのいい立派な人物だ。………腹立たしい程にな」
…………同族嫌悪、だろうか。
クラリーチェは思わずそんな事を考えてしまう。
「………ただ、非常に女好きでな。…………その、心配なのだ」
拗ねたように口を尖らせ、エドアルドが呟いたのが耳に届き、クラリーチェは呆気に取られたあと、花が綻ぶような笑顔を見せた。
「エドアルド様ったら…………、何を仰るのかと思えば…………」
「笑わないでくれ。私は本気で心配しているんだ!」
少しムキになりながら、エドアルドはクラリーチェを抱きしめた。
「心配は、御無用ですわ。………お伝えした筈です。私には、エドアルド様しかいない、と」
淡い紫色の瞳を揺らめかせながら、クラリーチェはエドアルドを見つめ、そう告げるとエドアルドの背中に手を回して彼に応えたのだった。
その為の準備が慌ただしく始まって間もなく、その知らせが舞い込んだ。
「オズヴァルド王国の、王太子殿下がいらっしゃるのですか………?」
エドアルドは、渋い顔をしながら頷いた。
エドアルドとラファエロの母親であるリオネッラ妃の生国、オズヴァルド。
冶金や織物などが盛んで、北方に聳える巨大な山脈から流れる雪解け水を利用した農業も発展した豊かな国だ。
亡きリオネッラ妃は現オズヴァルド国王の王妹だというのだから、王太子はエドアルド達の従兄弟に当たる筈だ。
その王太子が、開港祭の式典に合わせて訪問を予定しているというのだ。
「………私は、あいつに貴女を逢わせたくないというのが本音だが………」
奥歯をぎりぎりと噛み締めながら、エドアルドが呟いた。
「………私情を、政に持ち込むのは良くありませんわ」
険しい顔を緩めないエドアルドを宥めるように、クラリーチェは微笑んだ。
「分かっている」
苛立ちを隠すように、エドアルドは目を伏せた。
エドアルドがそれほどに拒否反応を示す王太子とは、一体どんな人物なのかという不安と興味が同時にクラリーチェの心に沸き起こった。
「オズヴァルドは、友好国だ。私の体の中にも、オズヴァルドの血が半分流れている。邪険にするつもりはないのだが………。まぁ、はっきり言ってしまえば、オズヴァルド王太子が少々厄介な人物なのだ」
諦めたように、エドアルドは白状した。
「厄介な…………?」
厄介な人物と聞いて、クラリーチェの脳裏には、ジュストが思い浮かんだ。
それを読み取ったかのように、エドアルドは表情を僅かに緩める。
「………あの狂人とは違う。頭脳明晰で、剣の腕もたつ、人当たりのいい立派な人物だ。………腹立たしい程にな」
…………同族嫌悪、だろうか。
クラリーチェは思わずそんな事を考えてしまう。
「………ただ、非常に女好きでな。…………その、心配なのだ」
拗ねたように口を尖らせ、エドアルドが呟いたのが耳に届き、クラリーチェは呆気に取られたあと、花が綻ぶような笑顔を見せた。
「エドアルド様ったら…………、何を仰るのかと思えば…………」
「笑わないでくれ。私は本気で心配しているんだ!」
少しムキになりながら、エドアルドはクラリーチェを抱きしめた。
「心配は、御無用ですわ。………お伝えした筈です。私には、エドアルド様しかいない、と」
淡い紫色の瞳を揺らめかせながら、クラリーチェはエドアルドを見つめ、そう告げるとエドアルドの背中に手を回して彼に応えたのだった。
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