冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
115 / 268
本編

閑話 扉の外(2 SIDE:ラファエロ)※読まなくても本編に影響ありません

しおりを挟む
「効果が、出ましたね」

微かな声で、リディアが呟いた。

「クラリーチェ様、可愛らしいですわ…………」

その隣で、リリアーナがうっとりと頬を赤らめる。
クラリーチェがかなり酒に弱いというのは、リディアからの報告で知っていた。今回はその体質を利用し、ほんの少し、二人の背中を後押ししようと考えたのだった。

「クラリーチェ………、愛している………」
「………私も………っ」

聞こえてくる愛を囁く甘い声に、この場にいる誰もが、このまま上手くラファエロの作戦通りになり、二人が身も心も結ばれると、そう信じた。

「………流石にこれ以上覗くのは、まずいと思うのですが………っ」

いつの間にか駆けつけていたダンテが、気まずそうに呟いた。

「………そうですね。ここまでこればもう大丈夫でしょう」

ラファエロも、女性陣もダンテの言葉に同意し、その場を立ち去るために扉を閉めようとした、その時だった。

「すまない………。こんな、つもりではなかったんだ………」

少し掠れたエドアルドの声が聞こえてきて、ラファエロは思わずその場で固まった。

「………貴女の事になると、何もかもが上手くいかない。思い通りにならないのだ。…………守りたいのに………っ、笑顔を見たいのに………っ、大切にしたいのに…………いつも泣かせて、不安にさせるばかりの自分が本当に不甲斐なくて………。なのに、貴女の優しさ甘えて、すぐに自制が効かなくなって………自分の覚悟を伝えるつもりが、危うく貴女を傷つけてしまうところだった。………つくづく自分が嫌になる………」

どうしたら、あの雰囲気からまた懺悔が始まってしまうのだろう。
思いもよらない展開に、ラファエロは無意識のうちに眉間に皺を寄せた。
他の面々にもその声は聞こえていたようで、皆一様にぽかんと口を開けていた。

だが、最愛の人に迫られてなお、手を出さないエドアルドの意思の強さと精神力は目を瞠るものがある。
それもまた、王としては必要な資質だろう。
エドアルドの内心を知るラファエロは、歯痒さを覚えながらも結局、エドアルドは婚姻を結ぶその日まで、己の決心を貫き通すのだと悟った。
だが、クラリーチェはエドアルドに対してどう感じるのだろうか。

「………謝らないで下さい。先に仕掛けたのは、私の方ですもの。………それに、私だっていつまでもただ守られるだけの、か弱い女性ではありません。…………リディアに比べたらまだまだでしょうけれど………。………でも、できれば今日のような思いをするのだけは、遠慮したいですわ」

そんなラファエロの不安を払拭するように、クラリーチェの言葉が聞こえてくる。

(………余計な、お世話だったみたいですね………)

ラファエロは自嘲気味な笑みを浮かべると、静かに扉を閉めた。

「………さて、護衛の者を残して、皆でささやかな祝杯でもあげましょうか」
「え………で、でも………殿下………?」

リディアが珍しく狼狽える。

「………あの二人なら、大丈夫でしょう。これから、結婚式の準備で忙しくなりそうですし、ようやく大掃除が終わったのですから、少しくらいは羽目を外しても問題はありませんよ」

今度は満面の笑みを浮かべ、ラファエロは宣言したのだった。
しおりを挟む
感想 641

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。