冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

閑話 我慢と浪漫 ※読まなくても本編に影響ありません

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「もう、何の憂いもなくなったのですからさっさとクラリーチェ嬢に手をつけてしまえばいいのではないですか?」

ブラマーニ家の面々の断罪を終えて、自室に戻る途中、ラファエロがエドアルドに声を掛けた。

「…………駄目だ」

エドアルドが欲求不満を解消するために政務の合間を縫って鍛錬に励んでいるのは、エドアルドに近い者達の間では有名な話だった。
鋼の精神と、幼い頃から鍛え上げられた頑丈な体を持つエドアルドだが、王としての執務と、ブラマーニ家に関する調査に加えて、それに追随する貴族の処分についてやその埋め合わせの人事についての采配まで、いつ寝ているのかと不思議になるような生活を送っていた。
さすがのエドアルドでも、この状況が長く続けば過労で倒れてもおかしくはなかった。

「…………何故です?もう婚約も周知の事実なのですから、事に及んだ所で後ろめたいことなど何もないでしょうに………」

ラファエロは怪訝そうに眉を顰める。

「初夜までは手を出さないと決めている」
「…………はあ?」

兄の、少し照れたような表情と、純情過ぎる発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
エドアルドはたどり着いた部屋の扉を、不機嫌そうに開くとラファエロを招き入れた。

「………笑いたければ、笑えばいい」

エドアルドがぽつりと呟くと、ラファエロはいつもの柔和な微笑みではなく、苦笑いを浮かべた。

「………いや、笑いを通り越して呆れますよ」
「自分でも分かってはいるさ。………だが、クラリーチェの事をそれだけ大切に思っているんだ!それに………神の前で永遠の愛を近いあった夜に、身も心も初めて一つに結ばれるというのは男の浪漫だろう?」

両想いなのだから、心は既に結ばれているのではないだろうかと、ラファエロは思ったが敢えて口には出さなかった。

「兄上………あなたの思考はどこまで乙女なのですか?」

深く、大きく溜息をつくとラファエロはやれやれと首を振った。

「別に悪いことでは無いだろう?」
「確かに、悪いことではありません。その貞操観念は褒め称えられるべき美徳でしょうけれど………あまり我慢しすぎるのは、よくありませんよ?」
「この程度の我慢は、我慢のうちに入らん」
「その欲求不満を消化するためにこっそり鍛錬をしているのは、どこのどなたでしょうね………?」

ラファエロはにやりと嗤うと、エドアルドに背を向けた。

「クラリーチェ嬢もそろそろ湯浴みを済ませている頃でしょう。………随分と辛い思いをさせてしまいましたからね。少し顔を出して差し上げた方がいいでしょう」

そう言い残すと、ラファエロは静かに扉を開けて、退出していった。

「言われなくても、分かっている………」

閉められた扉を見つめながら、エドアルドは呟いた。
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