冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

190.自制

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クラリーチェは、心と体が彼を求めているのを感じながらも、残された理性が自己主張を始めるのに気がついた。

(………このまま、エドアルド様に全てを捧げてしまいたい。………でも………)

本当にいいのか、と問い掛ける自分がいる。
もう二度とエドアルドに会えないかもしれないという恐怖を味わった心は、貪欲に彼を求めている。
いつの間にかエドアルドの首に回した腕は縋り付くような格好なのに、どうしてか体が強張った。
それを感じ取ったのか、エドアルドはクラリーチェの額に口付けを一つ落とすと、体を離してクラリーチェを抱き起こした。

「エドアルドさま…………?」

戸惑いながらエドアルドを見つめると、エドアルドはまるで悪戯を咎められた少年のような表情を浮かべていた。

「すまない………」

ぽつりと謝罪の言葉を口にしたエドアルドが、己を戒めるかのように唇を噛み締めた。

「こんな、つもりではなかったんだ………」

少し掠れて聞こえるエドアルドの声が、申し訳無さそうにそう告げた。
そして、懺悔でもするかのようにその場に跪くと、クラリーチェの手を取った。

「………貴女の事になると、何もかもが上手くいかない。思い通りにならないのだ。…………守りたいのに………っ、笑顔を見たいのに………っ、大切にしたいのに…………いつも泣かせて、不安にさせるばかりの自分が本当に不甲斐なくて………。なのに、貴女の優しさ甘えて、すぐに自制が効かなくなって………自分の覚悟を伝えるつもりが、危うく貴女を傷つけてしまうところだった。………つくづく自分が嫌になる………」
「エドアルド様…………」

クラリーチェは、口元に笑みを浮かべる。

「………謝らないで下さい。先に仕掛けたのは、私の方ですもの。………それに、私だっていつまでもただ守られるだけの、か弱い女性ではありません。…………リディアに比べたらまだまだでしょうけれど………。………でも、できれば今日のような思いをするのだけは、遠慮したいですわ」

はにかみながらも、はっきりと笑顔を浮かべると、エドアルドは一瞬呆けたようにクラリーチェを見つめ、そして同じように笑顔を浮かべた。

「あぁ、確かに………あの経験は、私も二度とごめんだな」

エドアルドは立ち上がると、クラリーチェを立ち上がらせた。

「貴女さえ良ければ…………少し、バルコニーで話をしないか?」

窓の外からは、眩しい程の月明かりが差し込んでいるのが見えた。
クラリーチェは、笑顔を浮かべたまま頷いた。
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