冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

188.触れてほしい

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「………クラリー………チェ………?」

エドアルドの声は戸惑いを含み、上擦る。同時にクラリーチェが手を重ねた拳に、更に力が込められた。
そんなエドアルドに対して、クラリーチェは恥
ずかしそうに目を伏せながら、静かに微笑んだ。
その動きに合わせて、はらりとクラリーチェの顔に銀糸のような髪がかかる。
ただそれだけなのに、その様が何とも艶っぽく見えて、エドアルドは硬直した。

出会った時は、まだ少女の域を抜けていなかったクラリーチェは、気がつけば立派な淑女へと成長していた。
その美しさにも磨きが掛かり、デビュタントの時も、そして開港祭の時も、ただ立っているだけでも老若男女を問わずに見る者を惹き付けるクラリーチェを、誰の目にも触れるところない場所へ閉じ込めてしまいたい衝動に駆られるのをずっと我慢していた。

だが、そんなにも愛おしくて仕方のないクラリーチェに、苦しく辛い思いをさせてしまったという罪悪感は、エドアルドを苛む。
彼女を守ることも出来なかった自分に、本当にクラリーチェを愛する資格があるのだろうかと幾度も自問した。
自身への怒りと、後悔と、そしてクラリーチェへの想いが入り混じって、エドアルドの胸の内で渦を巻いていた。

「負い目を感じているのですか?…………私は少しも気にしておりません。………エドアルド様がご無事で、私の所へ戻ってきてくださった…………それだけで充分なのです。………それでも心が苛まれるならば、どうか………もっと私に触れて………私をを抱き締めて、安心させて下さいませ」

どこか苦しそうな表情を浮かべるエドアルドに、クラリーチェは囁く。
やけに自分の胸の鼓動が煩く感じた。

(………気持ちが、昂っているせいだわ………)

エドアルドに求められるままに膝の上に乗ったり抱き合ったりはしていたが、自分から抱擁を強請るなど恥ずかしくて絶対に言い出せなかった。
しかしどうしてか今だけは、自分の気持ちに素直に、少し大胆になれる気がした。

「エドアルド様が触れて下さらないなら…………」

勇気を出して、ゆっくりと身を乗り出す。
エドアルドの拳に載せた手に体重を掛けると、拳は解け、エドアルドの指の間にクラリーチェの指が吸い込まれていく。

二人の距離が縮まって、互いの吐息が掛かり、鼻先が、そして唇が触れる。
クラリーチェの思いがけない行動に、エドアルドは呼吸を止めて瞠目したが、瑞々しく柔いクラリーチェの桜脣おうしんが押し当てられると、空いている手を、迷いながらもゆっくりとクラリーチェの背中へと回し、抱き寄せた。
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