冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

178.もう一つの物語(1)

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「どうも、お見苦しい所をお見せ致しました」
「いや、構わん」

少し呆気に取られた様子のエドアルドが、静かに視線をジュストに移す。
まだ喚いているのを見ると、一応意識はある様だ。
横で、猿轡を噛まされたアマンダが騒ぎながらリリアーナを睨みつけているが、リリアーナはその存在を完全に無視した。………まるでアマンダなどこの場にいないかのように。
それは、度々リリアーナがアマンダから受けていた嫌がらせの一つだったが、それをこの場で仕返ししたのだった。

「リリアーナ嬢、お見事でした。………先程の一撃といい………あなたは怒らせない方が良さそうですね。………お怪我はありませんか?」

甘く蕩けるような笑みを浮かべて囁くラファエロに、リリアーナは恥ずかしそうに微笑み返した。

「ええ、大丈夫ですわ。………お陰で、すっきり出来ました」

すると、ラファエロはリリアーナの顔を覗き込むような形を取った。

「そうは言っても、これ以上あなたが傷を負ってしまったら、私はグロッシ侯爵に顔向けが出来ません。………嫌でなければ、少し確認させて下さい」
「………父はきっと『名誉の傷』だと言い出すような気がいたしますけれど…………で、殿下がどうしてもと仰るなら…………」

瑞々しい頬を薄紅色に染めて、リリアーナは頷いた。
ジュストとて見た目は悪くない。それでも顔を合わせた時からいい印象を持っていなかったせいなのか、ジュストにときめきを感じることは一度もなかった。リリアーナが、自分には恋愛感情が欠落しているのではないかと思うほどに。………尤もそれは、ジュストにそれだけの魅力が無かっただけで、巷で人気の恋物語に出会ったことでそれは全くの勘違いだと分かったのだが。
………そんなリリアーナの目の前に、まるで名画に描かれた大天使さながらの美貌を持っているのに腹黒い、まさにリリアーナの『理想の王子様』が自分を気遣ってくれているのだからさすがのリリアーナも平常心を保つのは難しかった。

「では失礼しますよ、レディ?」

ラファエロはほんの少し、リリアーナが持ち上げたドレスの裾からリリアーナの足の具合を観察した。

「腫れや赤みはなさそうですが………、少し靴にそこの罪人の穢れた血が付着していますね。………伯爵夫人、リリアーナ嬢の足に合う替えの靴は手配できますか?」
「はい、殿下」

コルシーニ伯爵夫人は素早く動くと、ラファエロに美しい白地に金の刺繍の入った上品な靴を差し出した。

「流石、気が利きますね」

満足気に頷いたラファエロは、それをリリアーナへと差し出した。
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