冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

175.リリアーナ

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「………ふん、お前か」

ジュストは、冷めた目でリリアーナを見た。
この男はいつだってそうだった。
一見人当たりも良く、穏やかそうに見えるが、彼の本性は全く別だ。人の痛みも分からない、良心というものを一切持ち合わせていないのではないかと疑いたくなるほどの攻撃性があり、常に刺激を求める。

リリアーナが十四歳になった時、父からジュストとの婚約が成立した事を聞いた。

「ブラマーニ公爵家の面々は、どいつもこいつも強欲なだけで能力も人格も半人前以下だがな。………世の中には、どうしようもないようなクズが蔓延っているのだと知るいい機会だろう。社会勉強だとでも思えばいい」

まるで力試しでもするかのような、そんな言い方だった。
その言葉から、グロッシ侯爵は本気でジュストとリリアーナを結婚させる気などなく、リリアーナ自身を試しているのだと考えた。

父からの期待に応えるべく、リリアーナはジュストやブラマーニ公爵家の面々からの理不尽な扱いにも耐え続けた。
幼い頃から兄と共に、主に精神面を鍛えられたリリアーナを以てしても、我慢の限界を超えそうな事は、一度や二度ではなかった。
それでも、リリアーナは淑女の仮面を被り続け、ブラマーニ公爵家を観察していた。………父の言う『どうしようもないクズ』とはどれ程のものなのかと。

地位と金、名声を際限なく欲する公爵。
息子を盲目的に溺愛する公爵夫人。
公爵の実妹で、己の美貌に絶対の自信を持つ正妃。
そして、精神異常の公爵子息。

なるほど、稀代のクズ揃いなのは確かだった。
そう遠くない未来にブラマーニ公爵家が破滅するのは目に見えており、そこからおそらく父は、リリアーナに『自力で婚約出来なければ、公爵家と共に自滅しろ』と言っているのだと理解した。

しかし、ブラマーニ公爵家との繋がりがあった事で、彼女は素晴らしい出会いもあった。
一つは、クラリーチェ。
リリアーナとて、年頃の令嬢。いくら鋼ばりの精神力を持っているとはいえ、やはりお姫様には憧れを抱く。
そんな彼女の理想のお姫様像を具現化した存在がクラリーチェだった。
明らかな陰謀塗れのお茶会に招かれた事がきっかけで、憧れのクラリーチェと仲良くなれるとは夢にも思っていなかったリリアーナは、生まれて初めてジュストの婚約者だった事に喜びを感じた。

そして、もう一つは王弟ラファエロ。
彼とはデビュタント以来、何度か顔を合わせていたが、社交辞令の挨拶を交わす程度だった。
それが、クラリーチェと縁が出来た事で、ラファエロから『協力』を求められるようになるとは思いもしなかった。
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