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本編
173.罪と罰(13)※少し暴力描写あり
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「自白するようにと直談判してきた時は、ご立派な正義感に笑ってしまったわ。………人間なんて、誰しも自分が一番かわいいのだから、大人しく見て見ぬふりをするのが賢い生き方でしょう?そんな莫迦みたいに真面目に生きていて何が楽しいのかしらって、蔑んであげたわよ………。それでもあの女は、真っ直ぐな目で見返してきた。………だから、あの女の兄であるトゥーリ伯爵をこちら側に引き込んで、子が生まれて幸せの絶頂の時を見計らって、夫婦仲良く殺してあげたのよ………!あはははっ、死んでいくときはさぞかし無念だったでしょうねぇ!」
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、我慢の限界を超えたらしいエドアルドがディアマンテの鼻先に、彼女の兄と甥の血と唾液に塗れた剣先を突きつけた。
僅かにディアマンテの鼻と切っ先が触れて、血が滲み出す。
「ひっ………!お願い………っ………や、止めて………顔は、顔だけは………っ、傷つけないで………!」
強すぎる痛みで感覚が麻痺しているのか、あるいは薬の影響で痛みを感じなくなっているのかは分からないが、手の骨を踏み砕かれた割には饒舌だったディアマンテの顔が再び恐怖に歪んだ。
その様子を見て、エドアルドがゆっくりと囁いた。
「………そなたの、一番大切な………守りたいものは、その顔か………?」
「………そ、そうよ………っ。フィリッポ様は『お前は美しい』と、そう仰って下さったもの………」
凪いだ海のような、静かな問いかけに、ディアマンテは震えながら答える。
「………一度訊いてみたいと思っていたのですが………、あなたは父を愛していたのですか?」
晩年はただの欲望まみれの肥満中年だったフィリッポも、若かりし頃はそれなりの容姿だった。
ディアマンテが正妃になった後も、フィリッポとディアマンテが仲睦まじい様子は目にしたことがなかったラファエロは、常々疑問に思っていた事を口にした。
「当たり前じゃない!私はずっと、フィリッポ様をお慕いしていたわ!」
躊躇いなど一切見せず、ディアマンテはそう言い切る。
「父を愛していながら、多くの側妃………もとい愛妾と床を共にするのを管理していたとは、何ともいじらしい事ですね」
ラファエロは、意味ありげな微笑みを浮かべた。
正妃は、後宮の管理を任される。つまり、国王がいつ、どの妃の元を訪れたのかを全て知る立場だ。
「当たり前よ。フィリッポ様をお慕いしていたからこそ、辛い役目も勤め上げられたのだわ!」
今度はエドアルドが口元を皮肉げに歪めた。
「献身的に尽くしていたそなたに、父は労いの言葉を、掛けたか?………そなたに愛を囁いたか………?」
「フィリッポ様はああいう御方ですもの。言葉で頂かなくても、たっぷりと愛して頂く事で私にはきちんと伝わっているわ………!」
案の定の返答に、エドアルドの笑みが強くなる。
「そうか。………だが、母が存命中、父は母に愛していると何度も伝えていた。そして母亡き後はその墓前で同じ事を呟いていた。ディアマンテよ。………そなたは一度でも言われた事があったか?」
ディアマンテを追い詰めるように、エドアルドはゆっくりと問い掛けた。
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、我慢の限界を超えたらしいエドアルドがディアマンテの鼻先に、彼女の兄と甥の血と唾液に塗れた剣先を突きつけた。
僅かにディアマンテの鼻と切っ先が触れて、血が滲み出す。
「ひっ………!お願い………っ………や、止めて………顔は、顔だけは………っ、傷つけないで………!」
強すぎる痛みで感覚が麻痺しているのか、あるいは薬の影響で痛みを感じなくなっているのかは分からないが、手の骨を踏み砕かれた割には饒舌だったディアマンテの顔が再び恐怖に歪んだ。
その様子を見て、エドアルドがゆっくりと囁いた。
「………そなたの、一番大切な………守りたいものは、その顔か………?」
「………そ、そうよ………っ。フィリッポ様は『お前は美しい』と、そう仰って下さったもの………」
凪いだ海のような、静かな問いかけに、ディアマンテは震えながら答える。
「………一度訊いてみたいと思っていたのですが………、あなたは父を愛していたのですか?」
晩年はただの欲望まみれの肥満中年だったフィリッポも、若かりし頃はそれなりの容姿だった。
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「当たり前じゃない!私はずっと、フィリッポ様をお慕いしていたわ!」
躊躇いなど一切見せず、ディアマンテはそう言い切る。
「父を愛していながら、多くの側妃………もとい愛妾と床を共にするのを管理していたとは、何ともいじらしい事ですね」
ラファエロは、意味ありげな微笑みを浮かべた。
正妃は、後宮の管理を任される。つまり、国王がいつ、どの妃の元を訪れたのかを全て知る立場だ。
「当たり前よ。フィリッポ様をお慕いしていたからこそ、辛い役目も勤め上げられたのだわ!」
今度はエドアルドが口元を皮肉げに歪めた。
「献身的に尽くしていたそなたに、父は労いの言葉を、掛けたか?………そなたに愛を囁いたか………?」
「フィリッポ様はああいう御方ですもの。言葉で頂かなくても、たっぷりと愛して頂く事で私にはきちんと伝わっているわ………!」
案の定の返答に、エドアルドの笑みが強くなる。
「そうか。………だが、母が存命中、父は母に愛していると何度も伝えていた。そして母亡き後はその墓前で同じ事を呟いていた。ディアマンテよ。………そなたは一度でも言われた事があったか?」
ディアマンテを追い詰めるように、エドアルドはゆっくりと問い掛けた。
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