85 / 268
本編
167.罪と罰(7)
しおりを挟む
「陛下っ………何卒………何卒御慈悲をっ………!」
ブラマーニ公爵夫人が、苦しむ夫と息子を見ながら、絶叫した。
「慈悲?………そなたらは、自らが陥れ、殺めた者達に慈悲を与えたか?」
エドアルドの声は、底冷えがするほどに冷たいものだった。
フェラーラ侯爵夫妻は、エドアルドの言葉を聞いて静かに目を伏せ、ブラマーニ公爵夫人は呆然としたあと、項垂れた。
「………いいえ………」
「では私が慈悲を与える必要など皆無だろう」
夫人の懇願をばっさりと切り捨てると、額に脂汗を滲ませたブラマーニ公爵を見下ろす。
「………毒を使った経緯は分かった。その続きを話せ」
「………じゃ、邪魔な人間を、毒を使って排除出来ると分かってから………、面白い程に事がうまく運ぶようになると、段々と欲が出てきてありとあらゆる悪事に手を染めた。………勿論そこで被害者面をしているロベルト達もな。………フィリッポ王は政に興味もなく、女を囲う事に忙しかったから、全て私の思い通りに動いた………。私の指示通りに動くサヴィーニ侯爵を宰相に据えて、いざというときは切り捨てられるようにした。………子が産めない可哀想なディアマンテが、肩身の狭い思いをしなくて済むように、………フィリッポの通いが少しでも減るように、大量に女を後宮に入れた。我々の息の掛かった家に協力させ、傍系の家や、平民などの娘をかき集め、表向きだけは側妃として、正式な婚姻は結ばせなかったのが、よもやこのような形で跳ね返ってくるとは………」
「………少し考えれば分かりそうな事ですけれどね」
「ええ、私も同感ですわ」
ラファエロとリリアーナが呆れたように呟いたが、足を炙られ、適量の数十倍の自白剤を使われたブラマーニ公爵の耳にはそれは届かない。
「そんな中、フィリッポが亡くなり、お前が即位して状況は一変した。………お前が言った通り、今までどおりにいかなくなり、私達は次第にお前達兄弟を亡き者にし、王位を簒奪することを考え始めた。………お前たち兄弟が、私にそんな野望を抱かせた。………そもそも、お前達は幼い頃から、私達を警戒していた。私達の息の掛かった人間は一切近づけなかった。………本当に、その聡さと潔癖さが憎たらしいと………常々思っていたよ」
苦しそうな吐息が、ブラマーニ公爵の口から漏れ出した。
この男は、先祖の怨念という呪縛に囚われ、欲に身を任せた結果破滅した、惨めな男と言えるのかもしれない。
だが、彼の行いは到底許されるものではなく、また、エドアルドは許す気など微塵もなかった。
ブラマーニ公爵夫人が、苦しむ夫と息子を見ながら、絶叫した。
「慈悲?………そなたらは、自らが陥れ、殺めた者達に慈悲を与えたか?」
エドアルドの声は、底冷えがするほどに冷たいものだった。
フェラーラ侯爵夫妻は、エドアルドの言葉を聞いて静かに目を伏せ、ブラマーニ公爵夫人は呆然としたあと、項垂れた。
「………いいえ………」
「では私が慈悲を与える必要など皆無だろう」
夫人の懇願をばっさりと切り捨てると、額に脂汗を滲ませたブラマーニ公爵を見下ろす。
「………毒を使った経緯は分かった。その続きを話せ」
「………じゃ、邪魔な人間を、毒を使って排除出来ると分かってから………、面白い程に事がうまく運ぶようになると、段々と欲が出てきてありとあらゆる悪事に手を染めた。………勿論そこで被害者面をしているロベルト達もな。………フィリッポ王は政に興味もなく、女を囲う事に忙しかったから、全て私の思い通りに動いた………。私の指示通りに動くサヴィーニ侯爵を宰相に据えて、いざというときは切り捨てられるようにした。………子が産めない可哀想なディアマンテが、肩身の狭い思いをしなくて済むように、………フィリッポの通いが少しでも減るように、大量に女を後宮に入れた。我々の息の掛かった家に協力させ、傍系の家や、平民などの娘をかき集め、表向きだけは側妃として、正式な婚姻は結ばせなかったのが、よもやこのような形で跳ね返ってくるとは………」
「………少し考えれば分かりそうな事ですけれどね」
「ええ、私も同感ですわ」
ラファエロとリリアーナが呆れたように呟いたが、足を炙られ、適量の数十倍の自白剤を使われたブラマーニ公爵の耳にはそれは届かない。
「そんな中、フィリッポが亡くなり、お前が即位して状況は一変した。………お前が言った通り、今までどおりにいかなくなり、私達は次第にお前達兄弟を亡き者にし、王位を簒奪することを考え始めた。………お前たち兄弟が、私にそんな野望を抱かせた。………そもそも、お前達は幼い頃から、私達を警戒していた。私達の息の掛かった人間は一切近づけなかった。………本当に、その聡さと潔癖さが憎たらしいと………常々思っていたよ」
苦しそうな吐息が、ブラマーニ公爵の口から漏れ出した。
この男は、先祖の怨念という呪縛に囚われ、欲に身を任せた結果破滅した、惨めな男と言えるのかもしれない。
だが、彼の行いは到底許されるものではなく、また、エドアルドは許す気など微塵もなかった。
42
お気に入りに追加
7,129
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。