70 / 265
本編
153.苦悶 ※残酷・暴力描写あり
しおりを挟む
「…………っ」
「兄上、そのように喉元に刃を当てていたら、話せないではないですか」
やんわりとした口調で、ラファエロがエドアルドを窘めた。
ディアマンテがその言葉に安堵したのは、一瞬で、エドアルドが喉元から刃を離した途端に、ざっという音がして、彼女の視界が黒いもので遮られ、ディアマンテはびくりと肩を震わせた。しかし、彼女が自分の身に何が起きたのか、理解するのにそう時間はかからなかった。
目にも留まらぬ速さで腰に下げた剣を抜き去ったラファエロが、ディアマンテの結い上げた髪を断ち切り、それをディアマンテの目の前に投げ捨てたからだ。
「こうしておけば、罪人であることが一目瞭然ですし、手間が省けるでしょう?」
キエザをはじめとした周辺国に住む女性は、皆一様に腰のあたりまで髪を伸ばしている。
その女性の髪が切られるのは、斬首刑に処される場合のみ。………つまり、罪人に対して為されることだった。
「………まだ、斬首にすると決めた訳ではないがな」
切ってしまったものは仕方がないと言うかのように、エドアルドは肩をすくめてからディアマンテに向き直ると、床に付いているディアマンテの手を、躊躇いもなく踏みつけた。
同時に、ボキボキと鈍い音が耳に届いた。
近衛騎士に扮していたエドアルドが身につけているのは、金属製の甲冑で、当然足元も重厚な金属に覆われている。
その足で石の床に踏みつけにされたのだから、骨の数本は呆気なく折れるだろうということが推察された。
「ぎゃあああっ!」
淑女の口から飛び出たとは思えないような絶叫に、広間の空気は凍りついた。
「………痛いか?………痛いだろう。だが、そなたの行いによって人生を踏み躙られた者達の痛みは、そんなものではない。………それを理解した上でもなお、知らなかっただのと騒ぎ立てられるか?」
「ゔぁ……ああっ!!」
エドアルドが更に力を込めると、最早悲鳴にならない悲鳴がディアマンテの口から漏れた。
妖艶な女帝ディアマンテ元正妃は見る影もなく、無様にのたうち回る、ただの露出狂の中年女を、汚い物でも見るかのように、エドアルドは見下ろしている。
「………エドアルド様、………もう止めてください………」
その時、耐えきれなくなったクラリーチェが、エドアルドの背中にすがりついた。
途端に、エドアルドの動きがぴたりと止まる。
「全ての事実を、明らかにして下さっただけで、充分です」
クラリーチェは、微かに肩を震わせながら、精一杯訴えた。
「兄上、そのように喉元に刃を当てていたら、話せないではないですか」
やんわりとした口調で、ラファエロがエドアルドを窘めた。
ディアマンテがその言葉に安堵したのは、一瞬で、エドアルドが喉元から刃を離した途端に、ざっという音がして、彼女の視界が黒いもので遮られ、ディアマンテはびくりと肩を震わせた。しかし、彼女が自分の身に何が起きたのか、理解するのにそう時間はかからなかった。
目にも留まらぬ速さで腰に下げた剣を抜き去ったラファエロが、ディアマンテの結い上げた髪を断ち切り、それをディアマンテの目の前に投げ捨てたからだ。
「こうしておけば、罪人であることが一目瞭然ですし、手間が省けるでしょう?」
キエザをはじめとした周辺国に住む女性は、皆一様に腰のあたりまで髪を伸ばしている。
その女性の髪が切られるのは、斬首刑に処される場合のみ。………つまり、罪人に対して為されることだった。
「………まだ、斬首にすると決めた訳ではないがな」
切ってしまったものは仕方がないと言うかのように、エドアルドは肩をすくめてからディアマンテに向き直ると、床に付いているディアマンテの手を、躊躇いもなく踏みつけた。
同時に、ボキボキと鈍い音が耳に届いた。
近衛騎士に扮していたエドアルドが身につけているのは、金属製の甲冑で、当然足元も重厚な金属に覆われている。
その足で石の床に踏みつけにされたのだから、骨の数本は呆気なく折れるだろうということが推察された。
「ぎゃあああっ!」
淑女の口から飛び出たとは思えないような絶叫に、広間の空気は凍りついた。
「………痛いか?………痛いだろう。だが、そなたの行いによって人生を踏み躙られた者達の痛みは、そんなものではない。………それを理解した上でもなお、知らなかっただのと騒ぎ立てられるか?」
「ゔぁ……ああっ!!」
エドアルドが更に力を込めると、最早悲鳴にならない悲鳴がディアマンテの口から漏れた。
妖艶な女帝ディアマンテ元正妃は見る影もなく、無様にのたうち回る、ただの露出狂の中年女を、汚い物でも見るかのように、エドアルドは見下ろしている。
「………エドアルド様、………もう止めてください………」
その時、耐えきれなくなったクラリーチェが、エドアルドの背中にすがりついた。
途端に、エドアルドの動きがぴたりと止まる。
「全ての事実を、明らかにして下さっただけで、充分です」
クラリーチェは、微かに肩を震わせながら、精一杯訴えた。
応援ありがとうございます!
34
お気に入りに追加
7,233
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。