冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

135.フェラーラ侯爵

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「指示した覚えはございませんし、確認の際もそのような事実は確認しておりませんが?」

フェラーラ侯爵の赤い瞳が、僅かに細められた。
彼はブラマーニ公爵と違い、焦りや怯みはなく、不気味な程に冷静に見えた。
エドアルドの認識では、ある意味権力を持っているブラマーニ公爵よりも厄介な相手という認識があった。
即位してから初めての議会招集の際も、フェラーラ侯爵にだけは屈服した気持ちになったのを思い出す。

「………確かに開港祭については港の管理を任されている私の管轄です。祝祭船ブチントーロに関しては、念入りに確認をしたつもりですが………結果的に陛下の御身を危険に晒す事になってしまった事、申し訳無く思っております。ですが、航行に関しては、船頭に任せております。貴族の私などよりもよっぽど海を知っていますからね。………海は潮の流れが毎日変わりますから、障害物が流れてきても不思議はありません。そのような不測の事態を理由に責任を取れと仰られるのですかな?」
「………それが、本当に潮に流されてきたものであるというのなら、責めはしない。だが………」

エドアルドは、にやりと嗤った。

「障害物が故意に沈められ、船頭達には当初のルートと異なる航路を取るよう指示したのがそなたであるという証拠があれば、咎めても問題はあるまい」
「…………証拠?」

余裕の雰囲気でさえも漂わせていたフェラーラ侯爵の眉が、ピクリと跳ね上がった。

「ダンテ」

エドアルドは、彼と共に海に沈んだ筈の近衛騎士の名を呼ぶ。
エドアルドの腕の中に収まったクラリーチェは、泣き腫らした目を大きく見開いた。
栗色の短く刈り込んだ髪と、揃いの色の鋭い瞳、筋骨逞しい見慣れた近衛騎士が、数人の男を連れて姿を現した。
男達は皆一様に怯えきった様子で、背中を丸め、下を向いている。
その中の一人は、クラリーチェにも見覚えがあった。

「………船頭さん、ですよね?」

男は、クラリーチェの問いかけにびくりと肩を揺らした。
その男は間違いなく、クラリーチェ達が乗っていた祝祭船ブチントーロの船頭をしていた者だった。

「大人しく、質問に答えろ。開港祭の前夜、そなたらは、何をしていた?」

ダンテが、力強い声で男達に命令した。
男達は、一瞬フェラーラ侯爵の方を伺うような仕草を見せ、震えながらゆっくりと口を開いた。

「………こ、侯爵様の言いつけで………祝祭船ブチントーロに細工を………」
「お、俺達は………、処分に困っていた船を、沖に沈めておくように………侯爵様に言われて………」

怯えながらもダンテからの問いに答える男達を、フェラーラ侯爵は冷めた目で見つめていた。
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