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本編
132.クラリーチェの決意
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「お言葉ですが」
クラリーチェは、自分を落ち着かせるように深く息を吐いた。
「ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告も無しに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのは、ブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して、何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
ディアマンテの言葉の意味が、全く理解できず、クラリーチェはただ唖然とするしかなかった。
いや正確に言えば、理解できなかったのではなく、頭が理解することを拒否した。
別に王宮などに執着などはなく、むしろ本当にエドアルドが還らぬ人になっているのであれば、王宮に留まるなど、クラリーチェにとっては苦痛でしかない。
何故そのような理屈になるのか意味が分からなかったが、それ以上に、最後の一言が衝撃的だった。
「仰る………意味が、分かりません。………たった今、リリアーナ様に婚約解消を言い渡しておきながら、何故そのような事が言えるのですか………?」
カラカラに乾いた喉から、声を絞り出す。
「別に、そんなの大した事ではないのです。ジュストがあなたを気に入ったと言うのだから、大人しく従いなさい」
ブラマーニ公爵夫人が、冷たい視線を投げかけて来た。
「クラリーチェ様は准王族ですわよ?命令するだなんて、公爵家の名が泣きますわね」
リリアーナが呆れたように零すと、ブラマーニ公爵はリリアーナと、クラリーチェを一瞥した。
「………近衛騎士。グロッシ侯爵令嬢を、王太子への傷害の罪で牢に閉じ込めておけ。それから、ジャクウィント女侯爵は王太子妃の部屋に幽閉しろ。くれぐれも、傷付けないようにな」
ブラマーニ公爵のその言動は、正しく国王気取りだった。
動き出した近衛騎士からリリアーナを守るように彼女に駆け寄り、騎士たちを牽制するかのようにクラリーチェは声を張り上げた。
「私が生涯を共にするのは、エドアルド・レアーレ・キエザ国王陛下ただ一人です。………あなた方が仰るように、陛下が万が一命を落としていたとしても、彼以外を受け入れる事は神に誓ってありません。私の命は、エドアルド陛下に捧げたも同然。彼がこの世に居ないのであれば、私もまた、この命を神にお返ししましょう。………ですが、私は陛下がご無事だと、信じております。この目で、陛下の死を確認するまでは絶対に希望を捨てませんわ!」
祈るような気持ちで、クラリーチェは自分の決意を口にした。
「よく言った、クラリーチェ」
自分を捕らえるために背後に回った近衛騎士の声に、クラリーチェの目がこれ以上ないくらいに大きく見開かれた。
「え…………?」
聞き間違えるはずがない、愛おしくて、恋しくて、狂おしい程に逢いたかった人の、声。
クラリーチェは、ゆっくりと後ろを振り返る。
近衛騎士は、頭部を覆う兜を脱ぎ捨てた。
そこから、輝かんばかりの金髪が零れ落ち、息が止まるほど美しい顔が現れる。
そして、どこまでも透き通った水色の瞳がクラリーチェを捉え、微笑んだ。
「エド、アルド………さま………?」
クラリーチェの淡い紫色の瞳から、ずっと堪えていた涙が、堰を切ったように溢れ出した。
クラリーチェは、自分を落ち着かせるように深く息を吐いた。
「ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告も無しに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのは、ブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して、何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
ディアマンテの言葉の意味が、全く理解できず、クラリーチェはただ唖然とするしかなかった。
いや正確に言えば、理解できなかったのではなく、頭が理解することを拒否した。
別に王宮などに執着などはなく、むしろ本当にエドアルドが還らぬ人になっているのであれば、王宮に留まるなど、クラリーチェにとっては苦痛でしかない。
何故そのような理屈になるのか意味が分からなかったが、それ以上に、最後の一言が衝撃的だった。
「仰る………意味が、分かりません。………たった今、リリアーナ様に婚約解消を言い渡しておきながら、何故そのような事が言えるのですか………?」
カラカラに乾いた喉から、声を絞り出す。
「別に、そんなの大した事ではないのです。ジュストがあなたを気に入ったと言うのだから、大人しく従いなさい」
ブラマーニ公爵夫人が、冷たい視線を投げかけて来た。
「クラリーチェ様は准王族ですわよ?命令するだなんて、公爵家の名が泣きますわね」
リリアーナが呆れたように零すと、ブラマーニ公爵はリリアーナと、クラリーチェを一瞥した。
「………近衛騎士。グロッシ侯爵令嬢を、王太子への傷害の罪で牢に閉じ込めておけ。それから、ジャクウィント女侯爵は王太子妃の部屋に幽閉しろ。くれぐれも、傷付けないようにな」
ブラマーニ公爵のその言動は、正しく国王気取りだった。
動き出した近衛騎士からリリアーナを守るように彼女に駆け寄り、騎士たちを牽制するかのようにクラリーチェは声を張り上げた。
「私が生涯を共にするのは、エドアルド・レアーレ・キエザ国王陛下ただ一人です。………あなた方が仰るように、陛下が万が一命を落としていたとしても、彼以外を受け入れる事は神に誓ってありません。私の命は、エドアルド陛下に捧げたも同然。彼がこの世に居ないのであれば、私もまた、この命を神にお返ししましょう。………ですが、私は陛下がご無事だと、信じております。この目で、陛下の死を確認するまでは絶対に希望を捨てませんわ!」
祈るような気持ちで、クラリーチェは自分の決意を口にした。
「よく言った、クラリーチェ」
自分を捕らえるために背後に回った近衛騎士の声に、クラリーチェの目がこれ以上ないくらいに大きく見開かれた。
「え…………?」
聞き間違えるはずがない、愛おしくて、恋しくて、狂おしい程に逢いたかった人の、声。
クラリーチェは、ゆっくりと後ろを振り返る。
近衛騎士は、頭部を覆う兜を脱ぎ捨てた。
そこから、輝かんばかりの金髪が零れ落ち、息が止まるほど美しい顔が現れる。
そして、どこまでも透き通った水色の瞳がクラリーチェを捉え、微笑んだ。
「エド、アルド………さま………?」
クラリーチェの淡い紫色の瞳から、ずっと堪えていた涙が、堰を切ったように溢れ出した。
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