冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

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本編

130.婚約破棄宣言

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「なっ……………!」

ジュストも、ブラマーニ公爵も、そして他の貴族たちも、突然の事態に目を見張った。
リリアーナが、渾身の力を込めてジュストの左頬を拳で殴りつけたのだ。

「………あら、ごめんあそばせ?思ったよりも力が入りすぎてしまったようですわ」

涙を拭って、微笑んだそれはまさに『天使の微笑み』という表現が相応しいものだった。

ジュストはその衝撃によろめくと、思い切り殴られた頬を抑えると呆然としていたが、すぐにリリアーナを物凄い形相で睨みつけた。

「お前………っ、たかが侯爵家の娘のくせに、この私に手を挙げるとは………っ」
「まあ………痛かったですわよね?………だって、私痛いように殴りましたもの。本当なら、顔の形が変わるくらいにボコボコにして、ついでに不能にして差し上げたかったのですけれど、淑女教育の成果でしょうかしら…………。たった一撃しか私の拳を打ち込んで差し上げられないのが残念ですわ。………あなたが痛めつけたクラリーチェ様の心の痛みを、嫌と言うほどわからせて差し上げるつもりだったのですけれどね」

信じられないくらいに柔らかな、けれども恐ろしいほどの怒りを孕んだリリアーナの声が、広間に響き渡った。
クラリーチェは、リリアーナの後ろ姿を見つめる。
艷やかな、ストロベリーブロンドの髪を持つ、クラリーチェよりもやや小柄な彼女は、今までの人生の中で築き上げてきたものをかなぐり捨てて、クラリーチェを助けようとしてくれたという事実に、胸が締め付けられる。

「私ももういい加減うんざりしておりましたけれど………。クラリーチェ様に対する許し難い言動に、堪忍袋の緒が切れましたの」

大きく溜息をついて見せると、もう一度、リリアーナは涙を拭った。
その右手の指は、ジュストを殴った反動のせいか、赤く腫れ上がっているように見えた。

「うんざりだと………?それは、こちらの台詞だ。グロッシ侯爵の動きを封じる為に結んだ婚約だと割り切っていたつもりだが、お前のような生意気で勝ち気な上に煩い女は大嫌いだ」

ジュストが口を開くと、鮮やかな血が流れ出た。

「くそっ………何故私がこんな………」

忌々しそうに取り出したハンカチで血を拭うと、ジュストはリリアーナをもう一度睨みつけた。

「………お前のような野蛮な女は、私の婚約者に相応しくない!………もうお前は用済みだしな。この場で婚約破棄とさせてもらう!」

ジュストが堂々とそう宣言すると、リリアーナはしたり顔になり、そして嗤った。
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