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本編
129.反撃
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「………そう決めつけるのは、あまりにも早急ではありませんか?」
静かに、だが力強く、クラリーチェは声を上げた。
「陛下も、王弟殿下も安否不明としか聞かされておりません。確かに国にとって王位継承は最も重要なことでありますが、それ以前に、現国王陛下の捜索をする方が先ではないのですか?」
クラリーチェの淡い紫色の瞳は真っ直ぐにブラマーニ公爵を見つめた。
「…………そ、れは…………」
一瞬、ブラマーニ公爵がたじろいだ。
「陛下方の生存の可能性を排除して、次の王には誰が相応しいのかと議論すべきではないかと存じます。陛下の生死が確認できてからでも、遅くはないのではないでしょうか」
クラリーチェの言葉に、貴族達は戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「………クラリーチェ姫。あなたが、陛下の死を認めたくない気持ちは分かりますが、そろそろ現実に目を向けた方がいいと思いますよ。あれでは助かる見込みはないでしょうからね」
薄笑いを浮かべたジュストが、クラリーチェの言葉を否定する。
「ですが、陛下の行方が分からないと仰ったのは、貴方自身ではありませんか、ブラマーニ公爵子息様?」
するとジュストは少し落胆したような表情を浮かべる。
「そう言えばあなたは、先に海に落ちて意識を失ってしまったから、その後の出来事をご存知ないのでしたね。………陛下は、貴方に気を取られたせいで、倒れてきたマストに気がつくのが遅れ、マストは陛下を直撃しました。そのまま王弟殿下や近衛騎士達と共に、船ごと沈んでいかれ………我々も、助けようと努力はしたのですよ?しかし、あなたを助けるだけで精一杯だったのです。それに、お伝えしたとおり、天気の急変で波が立ち始めた。本当に、やむを得なかったのですよ。ただでさえ窮屈な正装で海に落ちれば身動きが取れずに沈むしかないというのに、大怪我を負っておられた。それに海面こそ穏やかでしたが、海底の方は潮の流れが早かったですしね。今頃は湾の外まで流され、魚の餌にでもなってしまっているでしょうね。………考えようによっては、あなたの為に、陛下が犠牲になったとも言えますね。………愛する姫君のためなら、陛下も本望でしょうねぇ」
わざとクラリーチェが傷つくような言葉を選ぶジュストに、クラリーチェは体の奥底から、どす黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。
すると、クラリーチェの隣に動く気配があった。
「リリアーナ、様?」
リリアーナは大粒の涙を流しながら、無言のまま、ジュストの元へと歩き出した。
そして。
「………私、もう我慢なりませんわ!」
可憐な声が、そう叫んだのを聞いた直後だった。
バキッ
広間に、鈍い音が響き渡ったかと思うと、ジュストがよろめいた。
「え…………?」
一瞬、何が起きたのか分からずにクラリーチェはリリアーナの後ろ姿を見つめた。
静かに、だが力強く、クラリーチェは声を上げた。
「陛下も、王弟殿下も安否不明としか聞かされておりません。確かに国にとって王位継承は最も重要なことでありますが、それ以前に、現国王陛下の捜索をする方が先ではないのですか?」
クラリーチェの淡い紫色の瞳は真っ直ぐにブラマーニ公爵を見つめた。
「…………そ、れは…………」
一瞬、ブラマーニ公爵がたじろいだ。
「陛下方の生存の可能性を排除して、次の王には誰が相応しいのかと議論すべきではないかと存じます。陛下の生死が確認できてからでも、遅くはないのではないでしょうか」
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「………クラリーチェ姫。あなたが、陛下の死を認めたくない気持ちは分かりますが、そろそろ現実に目を向けた方がいいと思いますよ。あれでは助かる見込みはないでしょうからね」
薄笑いを浮かべたジュストが、クラリーチェの言葉を否定する。
「ですが、陛下の行方が分からないと仰ったのは、貴方自身ではありませんか、ブラマーニ公爵子息様?」
するとジュストは少し落胆したような表情を浮かべる。
「そう言えばあなたは、先に海に落ちて意識を失ってしまったから、その後の出来事をご存知ないのでしたね。………陛下は、貴方に気を取られたせいで、倒れてきたマストに気がつくのが遅れ、マストは陛下を直撃しました。そのまま王弟殿下や近衛騎士達と共に、船ごと沈んでいかれ………我々も、助けようと努力はしたのですよ?しかし、あなたを助けるだけで精一杯だったのです。それに、お伝えしたとおり、天気の急変で波が立ち始めた。本当に、やむを得なかったのですよ。ただでさえ窮屈な正装で海に落ちれば身動きが取れずに沈むしかないというのに、大怪我を負っておられた。それに海面こそ穏やかでしたが、海底の方は潮の流れが早かったですしね。今頃は湾の外まで流され、魚の餌にでもなってしまっているでしょうね。………考えようによっては、あなたの為に、陛下が犠牲になったとも言えますね。………愛する姫君のためなら、陛下も本望でしょうねぇ」
わざとクラリーチェが傷つくような言葉を選ぶジュストに、クラリーチェは体の奥底から、どす黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。
すると、クラリーチェの隣に動く気配があった。
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そして。
「………私、もう我慢なりませんわ!」
可憐な声が、そう叫んだのを聞いた直後だった。
バキッ
広間に、鈍い音が響き渡ったかと思うと、ジュストがよろめいた。
「え…………?」
一瞬、何が起きたのか分からずにクラリーチェはリリアーナの後ろ姿を見つめた。
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