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本編
127.可能性
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王宮に到着すると、リリアーナが待っていてくれた。
「クラリーチェ様!!よくぞご無事で………!」
「リリアーナ様………」
人目を憚らず、リリアーナは駆け出し、クラリーチェにぎゅっとしがみついた。
「リリアーナ………さま………っ」
張り詰めていた気持ちが、一気に緩み、堪えていたものが溢れ出しそうになる。
でも、今は泣かない。………今はまだその時ではないから。
喉の奥で燻る、焼け付くような思いを呑み込むと、精一杯の微笑みを浮かべた。
その痛ましい表情を見たリリアーナが顔を背けて、嗚咽を漏らし始める。
「クラリーチェ………様………」
リリアーナは、エドアルド達の事を敢えて口にしようとはしなかった。
あの場にいた、全員が目撃した惨劇を現実として受け止めたくないという心の現れだろう。
「大丈夫………、私は………大丈夫です」
クラリーチェはまるで自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた。
「………このような場所で立ち話などしていないで、広間に行きませんか?もう他の貴族たちも集まって、亡き国王陛下の婚約者であるクラリーチェ姫の到着を待っている筈ですよ」
「え…………?」
言われるままにジュストに付いてきたが、王宮に来た理由は聞かされていなかった。
てっきり、公爵家で保護されて意識が戻った為に王宮に戻されたのだとばかり思っていたが、違うようだ。
ジュストが訳のわからない事をしきりに言っていたのが、なんとなく理解できてきた。
そして、それが示す可能性を導き出していく。
それは、何の証拠もない、ただの憶測でしかないのに、妙に納得がいった。
(………まさか、この人たち…………)
ブラマーニ公爵家は、呪いという事故に見せかけて幾人ものジャクウィント侯爵家の人間を死に追いやったという事実。
………そして、不運が重なって起きてしまった最悪の事故と、ジュストの言動。
(………あの事故は………人為的なものだった………?)
それに気がついた瞬間、クラリーチェの顔から、表情が消えた。
「………おや、クラリーチェ姫?随分顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?やはり海に落ちた影響があったのでしょうか………それとも、王宮に戻ると愛しの国王陛下を思い出して、居た堪れない気持ちになったのですか?」
クラリーチェの異変に気がついたジュストが、猫撫で声でそう問い掛ける。
ジュストの推測は全く的はずれだったが、疲弊したクラリーチェの心を抉るには充分過ぎる威力があった。
「…………っ」
クラリーチェの瞳が、大きく揺らいだ。
「………っ、この下衆が!」
声にならない悲鳴を上げたクラリーチェの代わりに、リリアーナが令嬢らしからぬ言葉を、ジュストにぶつけた。
「………黙れ、リリアーナ!お前などにもう用はない。………私は望むものを、この手に入れるのだからな」
ジュストはリリアーナに吐き捨てるようにそう言うと、狂ったような高笑いをしながら、クラリーチェの腕を乱暴に掴みあげた。
「……痛っ!」
「さあ、クラリーチェ姫。参りましょうか」
クラリーチェへと向けられた紫暗色の瞳はぞっとするような不気味さを含んでいた。
「クラリーチェ様!!よくぞご無事で………!」
「リリアーナ様………」
人目を憚らず、リリアーナは駆け出し、クラリーチェにぎゅっとしがみついた。
「リリアーナ………さま………っ」
張り詰めていた気持ちが、一気に緩み、堪えていたものが溢れ出しそうになる。
でも、今は泣かない。………今はまだその時ではないから。
喉の奥で燻る、焼け付くような思いを呑み込むと、精一杯の微笑みを浮かべた。
その痛ましい表情を見たリリアーナが顔を背けて、嗚咽を漏らし始める。
「クラリーチェ………様………」
リリアーナは、エドアルド達の事を敢えて口にしようとはしなかった。
あの場にいた、全員が目撃した惨劇を現実として受け止めたくないという心の現れだろう。
「大丈夫………、私は………大丈夫です」
クラリーチェはまるで自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた。
「………このような場所で立ち話などしていないで、広間に行きませんか?もう他の貴族たちも集まって、亡き国王陛下の婚約者であるクラリーチェ姫の到着を待っている筈ですよ」
「え…………?」
言われるままにジュストに付いてきたが、王宮に来た理由は聞かされていなかった。
てっきり、公爵家で保護されて意識が戻った為に王宮に戻されたのだとばかり思っていたが、違うようだ。
ジュストが訳のわからない事をしきりに言っていたのが、なんとなく理解できてきた。
そして、それが示す可能性を導き出していく。
それは、何の証拠もない、ただの憶測でしかないのに、妙に納得がいった。
(………まさか、この人たち…………)
ブラマーニ公爵家は、呪いという事故に見せかけて幾人ものジャクウィント侯爵家の人間を死に追いやったという事実。
………そして、不運が重なって起きてしまった最悪の事故と、ジュストの言動。
(………あの事故は………人為的なものだった………?)
それに気がついた瞬間、クラリーチェの顔から、表情が消えた。
「………おや、クラリーチェ姫?随分顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?やはり海に落ちた影響があったのでしょうか………それとも、王宮に戻ると愛しの国王陛下を思い出して、居た堪れない気持ちになったのですか?」
クラリーチェの異変に気がついたジュストが、猫撫で声でそう問い掛ける。
ジュストの推測は全く的はずれだったが、疲弊したクラリーチェの心を抉るには充分過ぎる威力があった。
「…………っ」
クラリーチェの瞳が、大きく揺らいだ。
「………っ、この下衆が!」
声にならない悲鳴を上げたクラリーチェの代わりに、リリアーナが令嬢らしからぬ言葉を、ジュストにぶつけた。
「………黙れ、リリアーナ!お前などにもう用はない。………私は望むものを、この手に入れるのだからな」
ジュストはリリアーナに吐き捨てるようにそう言うと、狂ったような高笑いをしながら、クラリーチェの腕を乱暴に掴みあげた。
「……痛っ!」
「さあ、クラリーチェ姫。参りましょうか」
クラリーチェへと向けられた紫暗色の瞳はぞっとするような不気味さを含んでいた。
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