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本編
126.狂気の貴公子
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用意されたドレスは、紫色に黒いレースをあしらった物だった。
喪に服していたときのものにも似ているが、色彩がジュストを彷彿とさせ、それを着用するのにはかなりの抵抗があった。
「ジュスト様からの言い付けなのです」
ブラマーニ公爵家の侍女と思わしき人々がクラリーチェを説得しようとするが、クラリーチェは断固として聞き入れなかった。
「海に落ちたときのものがあるでしょう?こちらのものしか用意がないのであれば、私は、ずぶ濡れのままのドレスを着用していきますわ」
他の男の色彩のドレスを纏うなど、エドアルドは絶対に赦さないだろうし、何よりもクラリーチェ自身が嫌だった。
まさか、王宮に上がるのにそのような格好で行けるはずはない。
つまり、クラリーチェは「別のものを用意しなければ行かない」という意思表示をしたのだった。
侍女達は渋々若草色のドレスを持ってきた。
クラリーチェには少し大きかったが、あの紫色のドレスを着るよりはずっとマシだろう。
急いで袖を通すと、用意された馬車に乗り込んだ。
「………用意したドレスは、お気に召さなかったのですか?」
わざとらしく悲しそうな顔をしたジュストが、同じ馬車に乗っているのは堪らなく嫌だったが、一刻も早く王宮に行って、真実を確かめたいと思う気持ちが、クラリーチェを強くする。
「………あちらは、私ではなく別の方にお送りするのが筋だと思いますわ。それに、私は心からお慕いしている方の色以外は纏わないと決めているのです」
作り笑いと分かるような笑顔を浮べて、はっきりと拒絶の意志を示す。
婚約者であるリリアーナでさえも、あの色彩のドレスは断固として拒否するだろうが、少なくともクラリーチェに贈るべきではないのは明らかだった。
「………ふふ。強がりを言っていられるのも、今のうちですよ。愛しの姫君」
エドアルドとは違う、どこか人を見下したような、穏やかな笑みを浮べてジュストは言った。
「あなたの、その宝石のような薄紫の瞳が深い絶望の色に染まるのを見るのが、楽しみだ………」
「…………何を、企んでいるのです?」
この男の口から紡がれる言葉一つ一つが、不気味さを含んでいる。
常人では凡そ計り知れないものを、内に秘めているようで、クラリーチェは眉を顰めた。
「王宮に行けば分かりますよ。………ああ、今日は本当に素晴らしい日だ」
今度ははっきりと分かるように、ジュストは笑い声を上げた。
そんなジュストから視線を外すように目を伏せると、クラリーチェは自分を落ち着かせ、静かに考えを巡らせるのだった。
喪に服していたときのものにも似ているが、色彩がジュストを彷彿とさせ、それを着用するのにはかなりの抵抗があった。
「ジュスト様からの言い付けなのです」
ブラマーニ公爵家の侍女と思わしき人々がクラリーチェを説得しようとするが、クラリーチェは断固として聞き入れなかった。
「海に落ちたときのものがあるでしょう?こちらのものしか用意がないのであれば、私は、ずぶ濡れのままのドレスを着用していきますわ」
他の男の色彩のドレスを纏うなど、エドアルドは絶対に赦さないだろうし、何よりもクラリーチェ自身が嫌だった。
まさか、王宮に上がるのにそのような格好で行けるはずはない。
つまり、クラリーチェは「別のものを用意しなければ行かない」という意思表示をしたのだった。
侍女達は渋々若草色のドレスを持ってきた。
クラリーチェには少し大きかったが、あの紫色のドレスを着るよりはずっとマシだろう。
急いで袖を通すと、用意された馬車に乗り込んだ。
「………用意したドレスは、お気に召さなかったのですか?」
わざとらしく悲しそうな顔をしたジュストが、同じ馬車に乗っているのは堪らなく嫌だったが、一刻も早く王宮に行って、真実を確かめたいと思う気持ちが、クラリーチェを強くする。
「………あちらは、私ではなく別の方にお送りするのが筋だと思いますわ。それに、私は心からお慕いしている方の色以外は纏わないと決めているのです」
作り笑いと分かるような笑顔を浮べて、はっきりと拒絶の意志を示す。
婚約者であるリリアーナでさえも、あの色彩のドレスは断固として拒否するだろうが、少なくともクラリーチェに贈るべきではないのは明らかだった。
「………ふふ。強がりを言っていられるのも、今のうちですよ。愛しの姫君」
エドアルドとは違う、どこか人を見下したような、穏やかな笑みを浮べてジュストは言った。
「あなたの、その宝石のような薄紫の瞳が深い絶望の色に染まるのを見るのが、楽しみだ………」
「…………何を、企んでいるのです?」
この男の口から紡がれる言葉一つ一つが、不気味さを含んでいる。
常人では凡そ計り知れないものを、内に秘めているようで、クラリーチェは眉を顰めた。
「王宮に行けば分かりますよ。………ああ、今日は本当に素晴らしい日だ」
今度ははっきりと分かるように、ジュストは笑い声を上げた。
そんなジュストから視線を外すように目を伏せると、クラリーチェは自分を落ち着かせ、静かに考えを巡らせるのだった。
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