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本編
123.事故
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湾の入口まで船が進むと、船は旋回して港へと戻っていく。
キエザ港は、大きな湾の最奥に位置している。
開港祭ではその湾内を一周して港の正面に国王の乗る祝祭船が戻ってくると、後続の船が見守る中で『海との結婚』と呼ばれる、花冠と、指輪を海に投げ入れる儀式が行われることになっている。
『海よ。我は汝と結婚せり。永遠に、汝が我と共にあるように』
あまりにも有名な海との結婚の宣言。
実際に祭りに参加したことのないクラリーチェでも知っているそのフレーズを、エドアルドが口にするのかと思うと、クラリーチェは少し複雑な気持ちになる。
別にエドアルドが海と結婚をする訳ではないと分かっているのにも関わらず、自分の中で嫉妬が渦巻くのを、クラリーチェは感じた。
(私………いつからこんなに欲深くなったのかしら)
クラリーチェはそんな事を考えながら、海と空の境界線を見つめた。
ブラマーニ公爵夫人が言っていたように、信じられないくらいに海は穏やかで、船の航行は至って順調だった。
「海上の方が、陸地よりも風が強く感じられるのですね」
「そうだな。………肌寒くはないか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
これだけ密着していれば、寒いなどと感じるわけはないのだが、エドアルドはお構いなしにぎゅっとクラリーチェを抱く腕に力を込める。
甘やかな雰囲気が漂うその光景を見慣れているラファエロは苦笑いを浮かべ、司祭や近衛騎士は気まずそうに視線を反らした。
「海から見る、キエザの港は美しいのですね」
正面に見える港に、クラリーチェは感嘆の溜息を漏らした。
「………我々の祖先が、大切に守り、作り上げてきたものだからな」
およそ一時間の船旅が終わりに近づき、ぐんぐんと迫る港を、誇らしげに見つめながら、エドアルドは呟く。
その時だった。
どん、という鈍い音がしたかと思うと、船が大きく揺れた。
「何が起きた?」
エドアルドが、怪訝そうに眉根を寄せる。
「船底に、何かが当たったようです!」
船頭が、慌てた様子で告げた。
「何だと?」
俄に、船内に戦慄が走った。
祝祭船は儀式用の船であり、湾外に出ることはなく、事前に航路の安全確認も行う為、装飾こそ豪華だが、特別頑丈な訳ではなかった。
「エドアルド様………!」
クラリーチェは息を呑む。
じわりと、船底から海水が侵入してきているのを見たからだ。
「緊急事態だ!船底が損傷した!」
大声で後続の船に事態を伝えたのは、ダンテだった。
後続船に危険を知らせ、止める為だった。
………しかし。
先程とは比較にならない大きな衝撃が、船を襲った。
後続船が減速出来ず、突っ込んできた。
激しい横揺れに、クラリーチェは海に投げ出される。
海に呑み込まれる瞬間、船尾に掲げられていた太いマストが、倒れていくのを見た気がした。
キエザ港は、大きな湾の最奥に位置している。
開港祭ではその湾内を一周して港の正面に国王の乗る祝祭船が戻ってくると、後続の船が見守る中で『海との結婚』と呼ばれる、花冠と、指輪を海に投げ入れる儀式が行われることになっている。
『海よ。我は汝と結婚せり。永遠に、汝が我と共にあるように』
あまりにも有名な海との結婚の宣言。
実際に祭りに参加したことのないクラリーチェでも知っているそのフレーズを、エドアルドが口にするのかと思うと、クラリーチェは少し複雑な気持ちになる。
別にエドアルドが海と結婚をする訳ではないと分かっているのにも関わらず、自分の中で嫉妬が渦巻くのを、クラリーチェは感じた。
(私………いつからこんなに欲深くなったのかしら)
クラリーチェはそんな事を考えながら、海と空の境界線を見つめた。
ブラマーニ公爵夫人が言っていたように、信じられないくらいに海は穏やかで、船の航行は至って順調だった。
「海上の方が、陸地よりも風が強く感じられるのですね」
「そうだな。………肌寒くはないか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
これだけ密着していれば、寒いなどと感じるわけはないのだが、エドアルドはお構いなしにぎゅっとクラリーチェを抱く腕に力を込める。
甘やかな雰囲気が漂うその光景を見慣れているラファエロは苦笑いを浮かべ、司祭や近衛騎士は気まずそうに視線を反らした。
「海から見る、キエザの港は美しいのですね」
正面に見える港に、クラリーチェは感嘆の溜息を漏らした。
「………我々の祖先が、大切に守り、作り上げてきたものだからな」
およそ一時間の船旅が終わりに近づき、ぐんぐんと迫る港を、誇らしげに見つめながら、エドアルドは呟く。
その時だった。
どん、という鈍い音がしたかと思うと、船が大きく揺れた。
「何が起きた?」
エドアルドが、怪訝そうに眉根を寄せる。
「船底に、何かが当たったようです!」
船頭が、慌てた様子で告げた。
「何だと?」
俄に、船内に戦慄が走った。
祝祭船は儀式用の船であり、湾外に出ることはなく、事前に航路の安全確認も行う為、装飾こそ豪華だが、特別頑丈な訳ではなかった。
「エドアルド様………!」
クラリーチェは息を呑む。
じわりと、船底から海水が侵入してきているのを見たからだ。
「緊急事態だ!船底が損傷した!」
大声で後続の船に事態を伝えたのは、ダンテだった。
後続船に危険を知らせ、止める為だった。
………しかし。
先程とは比較にならない大きな衝撃が、船を襲った。
後続船が減速出来ず、突っ込んできた。
激しい横揺れに、クラリーチェは海に投げ出される。
海に呑み込まれる瞬間、船尾に掲げられていた太いマストが、倒れていくのを見た気がした。
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