冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
39 / 265
本編

122.祭りの始まり

しおりを挟む
ディアマンテ達が立ち去ってから間もなく、潮が満ち、祭りの始まりを告げるピッフェロが鳴り響く。

司祭の祈りの言葉の後に、エドアルドが集まった国民に向けて短いスピーチを行うと、それぞれ用意された祝祭船ブチントーロやゴンドラ船に乗り込んでいく。祝祭船ブチントーロは基本的に王族や聖職者、そして上位貴族が乗り、ゴンドラ船には下位貴族や平民が乗るという決まりがある。

「まさか、船に乗るのも初めてか?」
「はい」

不慣れな足取りで、恐る恐る先頭の祝祭船ブチントーロに足をかけるクラリーチェを見兼ねたエドアルドは、軽々とクラリーチェを抱き上げた。

「きゃあっ!」
「しっかりと私に捕まっていろ」

言われなくても、クラリーチェは突然の事に、エドアルドの首にしっかりと腕を巻き付けてしがみつくしかない。
エドアルドはクラリーチェを抱えたまま、ひらりと船に飛び移る。
それは、巷で流行している恋物語の一節のようだった。
リリアーナをはじめとした、令嬢達から黄色い歓声が上がった。

「わざわざ目立つような事をしなくても良いと思いますが………」

後ろからついてきたラファエロが、やや呆れ顔で呟く。

「国王とその婚約者が仲睦まじい所を見せるのも、大切なのだろう?」

エドアルドはにやりと嗤う。
その言葉を聞き、クラリーチェは大衆の前でエドアルドに抱き上げられている事に気がついた。

「お、降ろして下さい………、エドアルド様っ」
「初めて船に乗るのであれば、酔ってしまうかもしれない。波は穏やかだとはいっても、かなり揺れる。大人しく私の腕の中にいた方が安全だ」

すっぽりと後ろから、抱きしめられればクラリーチェは抵抗のしようがない。
顔を真っ赤に染めながら、クラリーチェは恥ずかしそうに俯いた。

同じ祝祭船ブチントーロには、ラファエロと司祭、そしてダンテを含む護衛の近衛騎士と船の漕手が乗り込んだ。後続の船にはディアマンテ、ブラマーニ公爵夫妻とジュストとリリアーナ、フェラーラ侯爵夫妻が乗り込む。
船の船尾には、キエザの象徴である青地に白い獅子が描かれた旗が掲げられる。

「出航!」

エドアルドが声高らかに告げると、一斉に漕手達が櫂を動かす。
太陽の光を反射した水面がキラキラと輝き、クラリーチェは眩しさに目を細める。
頬を撫でる潮風が心地よく、クラリーチェはエドアルドの胸に頭を凭れさせた。

ふと後ろを振り返ると、リリアーナがクラリーチェに向かって手を振っていた。
その後ろにも続々と船が連なり、沖を目指していく。
クラリーチェはリリアーナに手を振り返すと、再び進路方向に視線を移した。
波が、船首部分にぶつかって弾け、小さな飛沫となってクラリーチェの顔にかかる。

こんなに近くで、海を感じたのは初めてで、クラリーチェは嬉しくなり、思わず微笑んだ。
………それが、絶望への船出だとも知らずに。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺、悪役騎士団長に転生する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,917pt お気に入り:2,521

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,398pt お気に入り:4,455

【R18】鎖に繋がれたまま、婚約解消を目指します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:568

婚約破棄まで死んでいます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:2,465

相手不在で進んでいく婚約解消物語

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:3,598

夜会の夜の赤い夢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:905

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。