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本編
120.挨拶
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貴賓席に向かうと、その到着を待ち受けていたかのようにジュストが姿を現した。
ジュストは、白地に銀糸の刺繍が施されたコートと薄紫のウエストコートを纏っている。
クラリーチェの色彩を彷彿とさせるような装いに、エドアルドは怒りが湧いてくるのを感じた。
「国王陛下、並びにクラリーチェ姫におかれましてはご機嫌麗しく………」
「………ああ」
ジュストの挨拶に対して、エドアルドは低い声でそれだけ返すと、ジュストを睨みつけた。
だが、ジュストは気にも止めずにクラリーチェに話し掛ける。
「………クラリーチェ姫、先日のお茶会ではご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いえ…………」
クラリーチェはジュストと目を合わせたくなくて、僅かに俯いた。
「本日の装いも、またお美しい。これでは海の神に見初められても、不思議ではない」
「………お上手ですわね」
愛想笑いを浮かべながら、クラリーチェはジュストが早く立ち去ってくれるように祈った。
「ブラマーニ公爵令息。我が婚約者に、親しげに話しかけるのは控えてもらおうか」
見かねたエドアルドがジュストを牽制すると、ジュストは口元にだけ薄っすらと笑みを浮かべた。
「未来の王妃様と、親交を深めさせていただいているだけですよ」
その笑みが、酷く不気味に感じて、クラリーチェはエドアルドの腕に触れている手に力を込めた。
そして、ふと周りを見渡すが、婚約者であるリリアーナの姿は見当たらなかった。
そう言えば、クラリーチェのデビュタントの際も、ジュストがリリアーナの近くにいるところを見た覚えがなかった。
「………リリアーナ様はご一緒ではないのですか?」
「別に、一緒にいる必要などないでしょう」
大したことではないといったふうに、ジュストは答えた。
クラリーチェは彼の考えが、理解できなかった。
利己的で、良心が欠落しているようにさえ感じられる。
「いくら形式的な婚約だとしても、リリアーナ様を蔑ろにしてもいいという理由にはならないのではないでしょうか」
「………何?」
クラリーチェの言葉に、ぴくりとジュストの眉が動いた。
「………もう一度、ご自身の身の振り方を考え直されたほうが良いと思いますわ」
クラリーチェはそこまで告げると、もう話すことはないという意思表示をするために、ジュストから顔をそむけた。
リリアーナが彼を嫌っていて、一緒にいたくないのは知っているが、人目につくところで蔑ろにされることで、社交界でのリリアーナの評判に傷がつくと思うと許せなかった。
ジュストは暫くクラリーチェを見つめていたが、軽く一礼をしてその場を立ち去っていった。
その後ろ姿を見送ると、エドアルドは背後に控えるダンテに目配せをしたのだった。
ジュストは、白地に銀糸の刺繍が施されたコートと薄紫のウエストコートを纏っている。
クラリーチェの色彩を彷彿とさせるような装いに、エドアルドは怒りが湧いてくるのを感じた。
「国王陛下、並びにクラリーチェ姫におかれましてはご機嫌麗しく………」
「………ああ」
ジュストの挨拶に対して、エドアルドは低い声でそれだけ返すと、ジュストを睨みつけた。
だが、ジュストは気にも止めずにクラリーチェに話し掛ける。
「………クラリーチェ姫、先日のお茶会ではご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いえ…………」
クラリーチェはジュストと目を合わせたくなくて、僅かに俯いた。
「本日の装いも、またお美しい。これでは海の神に見初められても、不思議ではない」
「………お上手ですわね」
愛想笑いを浮かべながら、クラリーチェはジュストが早く立ち去ってくれるように祈った。
「ブラマーニ公爵令息。我が婚約者に、親しげに話しかけるのは控えてもらおうか」
見かねたエドアルドがジュストを牽制すると、ジュストは口元にだけ薄っすらと笑みを浮かべた。
「未来の王妃様と、親交を深めさせていただいているだけですよ」
その笑みが、酷く不気味に感じて、クラリーチェはエドアルドの腕に触れている手に力を込めた。
そして、ふと周りを見渡すが、婚約者であるリリアーナの姿は見当たらなかった。
そう言えば、クラリーチェのデビュタントの際も、ジュストがリリアーナの近くにいるところを見た覚えがなかった。
「………リリアーナ様はご一緒ではないのですか?」
「別に、一緒にいる必要などないでしょう」
大したことではないといったふうに、ジュストは答えた。
クラリーチェは彼の考えが、理解できなかった。
利己的で、良心が欠落しているようにさえ感じられる。
「いくら形式的な婚約だとしても、リリアーナ様を蔑ろにしてもいいという理由にはならないのではないでしょうか」
「………何?」
クラリーチェの言葉に、ぴくりとジュストの眉が動いた。
「………もう一度、ご自身の身の振り方を考え直されたほうが良いと思いますわ」
クラリーチェはそこまで告げると、もう話すことはないという意思表示をするために、ジュストから顔をそむけた。
リリアーナが彼を嫌っていて、一緒にいたくないのは知っているが、人目につくところで蔑ろにされることで、社交界でのリリアーナの評判に傷がつくと思うと許せなかった。
ジュストは暫くクラリーチェを見つめていたが、軽く一礼をしてその場を立ち去っていった。
その後ろ姿を見送ると、エドアルドは背後に控えるダンテに目配せをしたのだった。
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