冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
34 / 265
本編

117.請願書(SIDE:エドアルド)

しおりを挟む
「ここのところ急進派の貴族だけではなく、穏健派の貴族達からの請願書も増えてきている」
「………後宮解体の皺寄せ、でしょうね。どの貴族も疑心暗鬼になっているのでしょう」

エドアルドは溜息をついた。
既にかつて後宮だった場所に妃は残っておらず、近々その建物も取り壊す予定だ。
今までの贅沢な暮らしに慣れてしまった元側妃………正確に言えば妃ではなく情婦になるのだろうが、彼女達を養うのはかなり厳しいようで、どの請願書に書かれている内容も、各家の財産や権利の保証に関するものや、資金繰りが厳しく納税猶予を願うものだった。

「おそらく、その不安を大いに煽り、王家に対する不信感を増幅させるのが狙いだろうな」
「私の力が及ばなかったばかりに…………」

穏健派貴族の筆頭である宰相・カンチェラーラ侯爵が申し訳無さそうに項垂れる。

「いや、宰相はよくやってくれている。当初は暴動が起きてもおかしくはないと考えていたからな」
「………冗談にしてはたちが悪いですよ、兄上」

エドアルドは大量に積み重ねられた請願書全てに目を通し終わると、眉間に皺を寄せた。

「冗談ではない。不安や疑念といった負の感情は、時に恐ろしい力となり、人を動かす。………奴等はそれを狙っているのかもしれない」

エドアルドの水色の瞳は、何処までも澱みなく、真っ直ぐに正面を見つめていた。

「宰相、グロッシ侯爵の動向は?」
「現在は静観しているようですが、彼があちら側につくことはあり得ないでしょう」
「娘が婚約者として人質に取られていてもか」
「………いや、あの様子ですと………人質としては………どうでしょうかね………」

何故か妙にはっきりしないもの言いで、ラファエロが呟いた。

「何だ、令嬢と知り合いなのか?」
「いえ、知り合いという程ではないですが、少々お話する機会がございまして………」
「リリアーナ嬢と仰いましたかな。中々面白いご令嬢でしたでしょう?」
「まあ………そうですね。それはともかくとして、グロッシ侯爵が動かないとあれば、急進派側も強行手段に出る可能性がありますね。動かせる駒は減ってきておりますし」
「………王族籍を剥奪した異母弟達はどうだ?」
「今の所目立った様子はありませんが………復権を唱えて、公爵家の動きに呼応する可能性はあるでしょう」
「まあ、全て想定内だが………」

エドアルドは窓から覗く、紺碧の海に目をやった。

「全ては、開港祭で決着をつける」

エドアルドは、自信に満ちた表情を浮かべた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺、悪役騎士団長に転生する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,712pt お気に入り:2,521

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:39,425pt お気に入り:4,455

【R18】鎖に繋がれたまま、婚約解消を目指します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:568

婚約破棄まで死んでいます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,465

相手不在で進んでいく婚約解消物語

恋愛 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:3,598

夜会の夜の赤い夢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:905

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。