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本編
117.請願書(SIDE:エドアルド)
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「ここのところ急進派の貴族だけではなく、穏健派の貴族達からの請願書も増えてきている」
「………後宮解体の皺寄せ、でしょうね。どの貴族も疑心暗鬼になっているのでしょう」
エドアルドは溜息をついた。
既にかつて後宮だった場所に妃は残っておらず、近々その建物も取り壊す予定だ。
今までの贅沢な暮らしに慣れてしまった元側妃………正確に言えば妃ではなく情婦になるのだろうが、彼女達を養うのはかなり厳しいようで、どの請願書に書かれている内容も、各家の財産や権利の保証に関するものや、資金繰りが厳しく納税猶予を願うものだった。
「おそらく、その不安を大いに煽り、王家に対する不信感を増幅させるのが狙いだろうな」
「私の力が及ばなかったばかりに…………」
穏健派貴族の筆頭である宰相・カンチェラーラ侯爵が申し訳無さそうに項垂れる。
「いや、宰相はよくやってくれている。当初は暴動が起きてもおかしくはないと考えていたからな」
「………冗談にしてはたちが悪いですよ、兄上」
エドアルドは大量に積み重ねられた請願書全てに目を通し終わると、眉間に皺を寄せた。
「冗談ではない。不安や疑念といった負の感情は、時に恐ろしい力となり、人を動かす。………奴等はそれを狙っているのかもしれない」
エドアルドの水色の瞳は、何処までも澱みなく、真っ直ぐに正面を見つめていた。
「宰相、グロッシ侯爵の動向は?」
「現在は静観しているようですが、彼があちら側につくことはあり得ないでしょう」
「娘が婚約者として人質に取られていてもか」
「………いや、あの様子ですと………人質としては………どうでしょうかね………」
何故か妙にはっきりしないもの言いで、ラファエロが呟いた。
「何だ、令嬢と知り合いなのか?」
「いえ、知り合いという程ではないですが、少々お話する機会がございまして………」
「リリアーナ嬢と仰いましたかな。中々面白いご令嬢でしたでしょう?」
「まあ………そうですね。それはともかくとして、グロッシ侯爵が動かないとあれば、急進派側も強行手段に出る可能性がありますね。動かせる駒は減ってきておりますし」
「………王族籍を剥奪した異母弟達はどうだ?」
「今の所目立った様子はありませんが………復権を唱えて、公爵家の動きに呼応する可能性はあるでしょう」
「まあ、全て想定内だが………」
エドアルドは窓から覗く、紺碧の海に目をやった。
「全ては、開港祭で決着をつける」
エドアルドは、自信に満ちた表情を浮かべた。
「………後宮解体の皺寄せ、でしょうね。どの貴族も疑心暗鬼になっているのでしょう」
エドアルドは溜息をついた。
既にかつて後宮だった場所に妃は残っておらず、近々その建物も取り壊す予定だ。
今までの贅沢な暮らしに慣れてしまった元側妃………正確に言えば妃ではなく情婦になるのだろうが、彼女達を養うのはかなり厳しいようで、どの請願書に書かれている内容も、各家の財産や権利の保証に関するものや、資金繰りが厳しく納税猶予を願うものだった。
「おそらく、その不安を大いに煽り、王家に対する不信感を増幅させるのが狙いだろうな」
「私の力が及ばなかったばかりに…………」
穏健派貴族の筆頭である宰相・カンチェラーラ侯爵が申し訳無さそうに項垂れる。
「いや、宰相はよくやってくれている。当初は暴動が起きてもおかしくはないと考えていたからな」
「………冗談にしてはたちが悪いですよ、兄上」
エドアルドは大量に積み重ねられた請願書全てに目を通し終わると、眉間に皺を寄せた。
「冗談ではない。不安や疑念といった負の感情は、時に恐ろしい力となり、人を動かす。………奴等はそれを狙っているのかもしれない」
エドアルドの水色の瞳は、何処までも澱みなく、真っ直ぐに正面を見つめていた。
「宰相、グロッシ侯爵の動向は?」
「現在は静観しているようですが、彼があちら側につくことはあり得ないでしょう」
「娘が婚約者として人質に取られていてもか」
「………いや、あの様子ですと………人質としては………どうでしょうかね………」
何故か妙にはっきりしないもの言いで、ラファエロが呟いた。
「何だ、令嬢と知り合いなのか?」
「いえ、知り合いという程ではないですが、少々お話する機会がございまして………」
「リリアーナ嬢と仰いましたかな。中々面白いご令嬢でしたでしょう?」
「まあ………そうですね。それはともかくとして、グロッシ侯爵が動かないとあれば、急進派側も強行手段に出る可能性がありますね。動かせる駒は減ってきておりますし」
「………王族籍を剥奪した異母弟達はどうだ?」
「今の所目立った様子はありませんが………復権を唱えて、公爵家の動きに呼応する可能性はあるでしょう」
「まあ、全て想定内だが………」
エドアルドは窓から覗く、紺碧の海に目をやった。
「全ては、開港祭で決着をつける」
エドアルドは、自信に満ちた表情を浮かべた。
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