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本編
112.不安と安堵
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「クラリーチェ!」
意識を取り戻して間もなく、エドアルドが飛び込んできた。
「エドアルド様………」
クラリーチェはエドアルドの顔を見て、安心する反面、罪悪感のようなものを感じる自分に気がついた。
「報告を聞いて、慌てて飛んできた。貴女が無事で、本当に良かった………」
「エドアルド様はお忙しいのに、ご心配をお掛けして申し訳ございません………」
謝罪の言葉を口にしながら、クラリーチェはぎゅっと手を握りしめる。
エドアルドはそんなクラリーチェの様子に気がついたのか、寝台の縁に腰を下ろすと、優しくクラリーチェの手に己の手を重ねた。
以前倒れた時も、エドアルドはこうして付き添ってくれた。
「放たれた矢は、先端が潰されている練習用のものだった。おそらく警告の意味を込められていたのだろうが………クラリーチェを害すなど………万死に値する」
エドアルドの表情が、一瞬冷酷に歪んだ。
その表情に、クラリーチェはぞくりと怖気がするのを感じた。
クラリーチェと一緒にいる時のエドアルドはいつも穏やかだ。しかし、彼が決してクラリーチェには見せない顔がある事もクラリーチェは知っている。もし、クラリーチェが彼を失望させるような事があれば、その恐ろしい一面を向けられるのだろうか。………そんな思いがクラリーチェの頭を過ぎったからだった。
だがすぐにエドアルドはクラリーチェを安心させるかのように元の表情に戻った。
「ダンテが矢を放った者を捕えたが、その場で自害したそうだ。………身元は今調べているが、ダンテやリディアが気が付かなかったとなると、相当な手練だろう」
クラリーチェが目を覚ましてから、何度も何度もリディアから謝罪を受けた。
倒れてしまったのは、強いショックを受けたことによる精神的なものだそうだが、それは一概に襲われたせいだけではない。その前の出来事は少なからずクラリーチェの心に影を落としていた。
「………それから、貴女が見つけた箱の中身は、今確認させている。貴女が心配するような事は何もないから、安心していて欲しい」
クラリーチェははっとして顔を上げた。
エドアルドはいつも先回りしてクラリーチェの気持ちを読み取ったかのように言い当ててくる。
まるで心の中を覗かれているかのようだ。
そして、エドアルドが掛けてくれる言葉が、他の何よりもクラリーチェの心を勇気づけてくれる事が何よりも不思議だった。
「………今後、更に警備を強化する。基本的に外出はしないでくれ。………その代わりと言ってはなんだが、カンチェラーラ侯爵夫人とグロッシ侯爵令嬢に貴女の話し相手を務めて貰うことにした」
「え…………?」
思わぬ提案に、クラリーチェは戸惑いながらエドアルドを見つめる。
すると、エドアルドは甘く蕩けるような笑顔を浮かべた。
「貴女の不安を拭い去るのも、貴女を喜ばせるのも、私の特権だからな」
クラリーチェは一瞬目を瞬いたが、その後すぐに花が綻ぶように微笑んだのだった。
意識を取り戻して間もなく、エドアルドが飛び込んできた。
「エドアルド様………」
クラリーチェはエドアルドの顔を見て、安心する反面、罪悪感のようなものを感じる自分に気がついた。
「報告を聞いて、慌てて飛んできた。貴女が無事で、本当に良かった………」
「エドアルド様はお忙しいのに、ご心配をお掛けして申し訳ございません………」
謝罪の言葉を口にしながら、クラリーチェはぎゅっと手を握りしめる。
エドアルドはそんなクラリーチェの様子に気がついたのか、寝台の縁に腰を下ろすと、優しくクラリーチェの手に己の手を重ねた。
以前倒れた時も、エドアルドはこうして付き添ってくれた。
「放たれた矢は、先端が潰されている練習用のものだった。おそらく警告の意味を込められていたのだろうが………クラリーチェを害すなど………万死に値する」
エドアルドの表情が、一瞬冷酷に歪んだ。
その表情に、クラリーチェはぞくりと怖気がするのを感じた。
クラリーチェと一緒にいる時のエドアルドはいつも穏やかだ。しかし、彼が決してクラリーチェには見せない顔がある事もクラリーチェは知っている。もし、クラリーチェが彼を失望させるような事があれば、その恐ろしい一面を向けられるのだろうか。………そんな思いがクラリーチェの頭を過ぎったからだった。
だがすぐにエドアルドはクラリーチェを安心させるかのように元の表情に戻った。
「ダンテが矢を放った者を捕えたが、その場で自害したそうだ。………身元は今調べているが、ダンテやリディアが気が付かなかったとなると、相当な手練だろう」
クラリーチェが目を覚ましてから、何度も何度もリディアから謝罪を受けた。
倒れてしまったのは、強いショックを受けたことによる精神的なものだそうだが、それは一概に襲われたせいだけではない。その前の出来事は少なからずクラリーチェの心に影を落としていた。
「………それから、貴女が見つけた箱の中身は、今確認させている。貴女が心配するような事は何もないから、安心していて欲しい」
クラリーチェははっとして顔を上げた。
エドアルドはいつも先回りしてクラリーチェの気持ちを読み取ったかのように言い当ててくる。
まるで心の中を覗かれているかのようだ。
そして、エドアルドが掛けてくれる言葉が、他の何よりもクラリーチェの心を勇気づけてくれる事が何よりも不思議だった。
「………今後、更に警備を強化する。基本的に外出はしないでくれ。………その代わりと言ってはなんだが、カンチェラーラ侯爵夫人とグロッシ侯爵令嬢に貴女の話し相手を務めて貰うことにした」
「え…………?」
思わぬ提案に、クラリーチェは戸惑いながらエドアルドを見つめる。
すると、エドアルドは甘く蕩けるような笑顔を浮かべた。
「貴女の不安を拭い去るのも、貴女を喜ばせるのも、私の特権だからな」
クラリーチェは一瞬目を瞬いたが、その後すぐに花が綻ぶように微笑んだのだった。
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