冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
上 下
18 / 268
本編

閑話 国王陛下と王弟殿下の奮闘 ※読まなくても本編に影響ありません

しおりを挟む
※ 時間軸は晩餐会後あたりまで遡ります。


エドアルドは、自室で今日何度目か分からない溜息をついた。

「自分の気持ちを伝えるなど、どうしたらいいのかさっぱり分からん………!」

幼い頃から神童と謳われ、王太子となってからも『完全無欠』とまで評され、生まれてこの方躓いたことなど一度もなかったエドアルドは、この時最大の挫折を味わっていた。

クラリーチェに、想いを伝えると決意したのはいいものの、侍女すらも必要最低限しか近づけさせないエドアルドにとって、女という生き物ははっきり言って未知の生物。
女心を勉強しろだのとラファエロに言われても、そもそもそれをどうやって勉強すればいいのかすらもさっぱり思い浮かばなかった。



「………ラファエロ。少し、いいか?」

結局困り果てたエドアルドは、ラファエロの部屋へと向かった。

「………そろそろ来る頃かと思っていましたよ」

ラファエロは、余裕たっぷりに微笑みながら手招きをする。
その態度は癪に障ったが、その気持ちを噛み潰して、声を振り絞る。

「頼む。教えてくれ。私はどうすればいい?」

するとラファエロは、呆れたように溜息をついた。

「兄上は、莫迦ですか?」
「何だと?」

唐突に弟からかけられた言葉に呆然とする。

「少しは自分で考えてきたのかと思えば丸投げとは………完全無欠の国王陛下が聞いて呆れますね」
「む………」

返す言葉が見つからず、エドアルドは押し黙った。
どんなに考えても何も思い浮かばないから恥を忍んで弟に助けを乞うたのに、この態度だ。
悔しさに唇を噛むエドアルドを見て、ほんの少し、ラファエロは笑い、囁いた。

「恥もプライドも捨てて、自分自身を曝け出すのですよ。彼女の心以外、欲しいものは何もないのでしょう?その気持ちを、包み隠さず、心のままに伝えるんです」
「心のままに………か」

ラファエロの言葉を、ゆっくりと噛み砕きながら消化していく。

「それと、重要なのは想いを伝える場所やシチュエーションですね。こう、乙女心を擽る………」
「その乙女心とやらが理解できていれば、お前に頭を下げていない」
「………そうでした。………全く、どうしてこんなカタブツに育ったのやら………。………あぁ、そういえば二人の出会いは、月の綺麗な夜でしたね?手紙でも書いて、夜の散歩にでも誘ってみてはいかがです?」
「なるほどな………」

エドアルドは納得したように頷いた。

「流石に、手紙の内容までは指導しませんよ?………このあたりの本でも読んで、勉強して下さい」

そう言ってファエロが差し出したのは、貴族令嬢達の間で流行している恋物語だった。
王太子と、不遇の令嬢が偶然出会い、困難を乗り越えて結ばれるといった内容の物だが、当然エドアルドはそんな物だとは知らない。

「ラファエロ、恩に着る」

渡された本を大切そうに脇に抱えると、エドアルドはそそくさと退散していった。

「………全く世話の焼ける兄ですね。私自身恋愛経験ゼロだと言うのに、何が悲しくて実の兄に恋愛の手解きをする為に恋物語で勉強など………」

ラファエロは去りゆく兄の背中を見つめながら独りごちた。


その後、部屋に戻ったエドアルドが人生初の恋物語というジャンルに手を出した。

「な………これは………」

(まるで、クラリーチェと私のようではないか………!)

エドアルドは1ページ、また1ページと読み進め、いつしか夢中になってページを捲っていた。
何度も、何度も読み返してしまう自分に気が付いた時には、既に空が白み始めていた。

「しまった………手紙を書かなければならぬというのに………」

局所局所の状況が妙に自分に当てはまるそのストーリーが、エドアルドを物語の世界に引き込んだ。

結局、手紙は三日間徹夜で文章を捻り出し、クラリーチェに届ける事に成功したのだった。

ちなみに恋物語の読本はラファエロの元には永久に戻ってくることはなかったという。
また、物語の作者が明かされる事は無かったが、とても高貴な身分の殿方なのだという噂がまことしやかに囁かれたという。
しおりを挟む
感想 641

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。