猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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新婚編

60.思いがけない贈り物

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「…………本当に………。もういい加減分かっていると言っても、義姉上の名を出しただけでこんなにも興奮されるとは………。一体、どうすれば良いのでしょうね?」

一瞬だけ目を丸くしたラファエロが、またしても笑いを押し殺しながら呟いた。

「あの旅行は、お二人での初めての旅行でしたのでしょう?それなのにクラリーチェ様に尋ねても、恥ずかしがって話して下さいませんし………。クラリーチェ様達もやはりここへは景色を見に夕暮れ時に訪れたのですか?」

素直な反応を返してしまったことに恥ずかしさを覚えつつも、リリアーナはしっかりと今まで知り得なかった情報をラファエロから聞き出そうと試みた。

「ええ、その通りです。………因みにこの場所を兄上に教えたのは、リベラートなのだそうですよ」

ようやく落ち着きを取り戻したらしいラファエロは眩しそうに目を細めて運河を眺めながらそう教えてくれた。

「まあ………。王太子殿下らしいといえばそれまでですけれど………。それでもお二人のデートにはピッタリの場所ですわね」

リリアーナはこの場所で肩を寄せるエドアルドとクラリーチェを想像した。
幻想的な風景と二人の美貌が相俟って、さぞかし美しい光景だったに違いない。
それを直接見ることが出来なかった、ということがリリアーナにとっては大きな損失だった。

「………リリアーナ」

リリアーナが勝手に一人で気落ちしていると、不意にラファエロに名を呼ばれた。

驚いて顔を上げると、ラファエロがいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「…………?」

左手がラファエロによって掬い上げられて、そのまま口吻が落とされる。

「………ねえ、知っていますか?遥か遠くの大陸では、特別な指輪を贈り合って夫婦の絆を確かめ合うのだそうですよ」
「え…………?」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、リリアーナの左手の薬指には、小粒のエメラルドを埋め込んだ華奢なデザインの指輪が嵌められていた。

「兄上はこの場所で、その言い伝えにのっとった指輪を、義姉上に贈ったそうなので、私も真似してみたのですが………お気に召しましたか?」

思いもよらない贈り物に、リリアーナは大きく目を見開いてから、大輪の花が綻ぶような笑顔を浮かべた。
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