猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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新婚編

15.以心伝心

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「素敵…………!」

リリアーナは再び感嘆の溜息を漏らした。
建物の内部は、外観から想像する以上に素晴らしいものだった。

大理石をメインにした内装はシンプルだったが、要所要所に緻密な彫刻が施されており、センスの良さを感じさせる。
各所に置かれた家具も、青と白で統一されていて、建物の優美さを強調するようだった。
流石は芸術の都、と言ったところだろうか。
あまり装飾品などには興味がないリリアーナも思わず立ち止まり、見入ってしまう。

「母はこういったシンプルで繊細なデザインを好んだそうです。………きっと、キエザ王宮はさぞかし居心地が悪かった事でしょうね」

微笑みながら、ゆったりと歩いていくラファエロの声が僅かに沈むのを、リリアーナは聞き逃さなかった。

ラファエロは幼少期の殆どを、オズヴァルドここで過ごした。その間、伯父夫妻や従兄弟達、それにソニアやエドアルドに囲まれ、何不自由なく、愛情たっぷりに育てられた筈だ。
それでも、実の母親の代わりには誰も成り得ないのだ。
だからこそ自分の誕生とほぼ同時にこの世を去った母の面影を、ラファエロは無意識のうちに追っているのかもしれない。
そう思うと、リリアーナは胸の奥がきゅっと締め付けられるようだった。

「…………ラファエロ、様………」

リリアーナは無意識的に、隣を歩くラファエロの手を強く、強く握り締めていた。

励ましたい、という気持ちよりも、ラファエロの心に少しでも寄り添いたい、という気持ちのほうが近いのかもしれない。
だが、そう感じるよりも、体の方が先に反応していたのだ。

するとラファエロははっとしたように瞠目したかと思うと、ふっと微笑んだ。

「………リリアーナ………」

リリアーナに向けられたエメラルド色の瞳は、リリアーナが今何を考え、何を感じているのかを全て見通しているようだった。


しかしラファエロは何も言わず、リリアーナの手を握り返したかと思うと、そのままぐいっとリリアーナの身体を引き寄せて、軽々と抱き上げた。

「………本当に、あなたという人は………」

聞こえるか、聞こえないかというような微かな声で呟いた。
互いに、言葉にしなくても互いの気持ちが伝わっていることを確信し、リリアーナはラファエロに微笑みかけると、そっとラファエロに顔を近づけ、唇を重ねたのだった。
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