猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

164.譲歩

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「なるほど。それはいい考えかもしれません。………義姉上は、いかがですか?」
「そうですね。双方の国民に、被害が及ばなければ問題ないでしょう」

慈母のような神々しさすらも感じられるたおやかな微笑みを浮かべるクラリーチェは静かに頷いた。

「………では、こういうのは如何でしょう?交易については、今までどおりに行う事とします。但し、今後十年間、キエザ国籍の船の寄港料をオルカーニャ王家の私財で賄うこと。また、その負担を緩和するための増税は一切禁止します」
「なっ…………!」

少し考える素振りを見せてから、ラファエロは天使のような微笑みを浮かび上がらせながら提案をする。
しかし、アメリーゴは焦ったように声を上げた。

「不満なら別に構いません。先程も言ったでしょう?取引相手は別に一国だけではありませんからね。まあ我が国の硝子工芸以上の技術を持つ国など私の知る限りでは存在しませんが…………」

眩しい程の微笑みが、黒さを孕む。
オルカーニャ側が交易を駒にキエザを脅していた頃と立場が完全に逆転していた。

「それに金額のことならば心配いりませんよ。破産する程の金額にはなりませんし、質素倹約に努め、切り詰めれば支払えない金額ではありません。それに、その小山のようなお腹を引っ込めるいいきっかけになるのではありませんか?」

ふふ、と小さく笑い声を上げるラファエロに対し、年も腹周りも三倍ほどあるアメリーゴは恥辱のあまり顔を紅潮させる。

「………妃達の温情により、こちらはこれ以上ない程に譲歩してやったのだ。この条件が呑めないというのであれば、即刻キエザから出ていって貰おう。本来であれば、我が軍を率いてオルカーニャを攻め滅ぼしてやりたいくらいだからな」

ラファエロに追い詰められたアメリーゴに対し、わざと尊大な態度を取るエドアルドが更に追い打ちを掛ける。
窮地に追いやられたアメリーゴには最早、選択の余地など無かった。

「つ、謹んでお受け致します………」

消え入りそうな声で返事をするアメリーゴは、今にも泣き出しそうな表情だった。

「そうか」

エドアルドは素っ気なく返事をすると、アメリーゴから目を逸らした。

「話は以上だ」

もう顔も見たくない、とでも言うように言い捨てると、エドアルドはクラリーチェを伴い、さっさと退席していった。

「………まあ今後も取引を続けるかどうかは私達王家、というよりもがどうするかという部分がどうするか大きいですけれど、ね」

そんな兄夫婦を見送りながら、ぼそりとリリアーナにだけ聞こえるような小声で、ラファエロがそう呟いた。
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