猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

162.クラリーチェの懇願

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「勿論、我が国からの船の提供、並びに造船に関する技術の供与も今後は望めぬと思って貰おう」

エドアルドが追い打ちをかけるようにきっぱりと告げると、アメリーゴの表情が更に強張った。

「…………そんな…………」

少し間をおいてからゆっくりと天を仰ぎ、茫然自失で呟いたアメリーゴの両目からは、ぽろりと涙が溢れた。
己の慢心と、娘の暴走で自国の失った損害の、あまりの大きさを改めて実感しているかのようだった。

「………もうこれ以上話すことはない。顔を見るのも不愉快だ」

嫌悪感を露わにしながら、エドアルドがアメリーゴやラヴィニア達から視線を逸らし、クラリーチェの方を見る。
するとクラリーチェは困ったように微笑みを浮かべた。

「幾ら腹を立てているからと言っても、その言いようはあまりにも失礼ですよ」

やんわりとクラリーチェが嗜めると、エドアルドはほんの少し顔を歪めて唇を噛んだ。
冷徹で常に自信に満ちた、絶対君主という言葉を体現したかのようなエドアルドも、やはりクラリーチェにだけは弱いらしい。

「………私の事はともかく、ラファエロ様とリリアーナ様の件は確かに、厳重に抗議をすべきだと思います。ですが、エドアルド様の決定で一番困るのは、何の罪もないオルカーニャの国民達になってしまうのではありませんか?」
「………それはそうだが、こんな王族をのさばらせている奴らにも責任はあるだろう?」

エドアルドの返答に、クラリーチェは小さく溜息を零した。

「それは一般の、実際に汗を流して働き、檸檬酒リモンチェッロを作っている人達や毎日海に出て漁をする漁師達からすれば全く関係のないことでしょう。エドアルド様の決定は、オルカーニャ王国に対しては最も打撃を与えられる、有効な手立てかもしれません。ですが、もう一度考え直していただくことは、出来ませんか?」

クラリーチェの淡い紫色の瞳が、真っ直ぐにエドアルドを射た。

(本当にクラリーチェ様は女神ですわ………っ!あれだけラヴィニアあの王女に侮辱されたというのに、オルカーニャの国民達の心配をなさるなんて…………っ)

流石にここでクラリーチェを褒め称えるわけにもいかず、リリアーナは神妙な面持ちを浮かべながらも、心の中で思う存分クラリーチェへの称賛を送るのだった。
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