猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

110.オルカーニャ王家の内情

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「お父様からの書簡が届いたのなら、まずわたくしに報告するのがお前の役目でしょう?本当に使えない男ね………っ!」
「姫様にではなく私宛に届いたものでしたので、ご報告の必要はないかと………」
「お前の判断など聞いていないのよ!一体何のための従者なのかしら」

相変わらず着眼点がずれていて全く人の話を聞いていないことに、リリアーナは呆れることすらもしなくなっていた。
ただ理不尽に罵られるルカが気の毒に思えたが、当のルカは、ラヴィニアの言葉をただ受け入れているように見える。

「それで、書簡には何と書かれていたのです、インサーナ侯爵令息?」

ラヴィニアをまるっきり無視したラファエロが、ルカに向かって問い掛けた。

「………まずは、オルカーニャ王家の内情についてご説明申し上げます」

あれほど罵られた直後だというのに、ルカは全く動じることなく、静かな口調でラファエロの問いに答える。
ラヴィニアを人々を翻弄するような激しい炎に例えるとしたら、ルカは森の奥でひっそりと水を湛える湖なのだとリリアーナは思う。
その印象のとおりの淡々とした様子で、ルカは話を続けた。

「既にご存知のとおり、陛下と王妃殿下は姫様を溺愛し、姫様の望みは全て叶えていらっしゃいました。しかし、姫様の兄君でいらっしゃる王太子殿下や、ガラディス王国に嫁がれた姫様の姉君は、留まるところを知らない姫様の我儘に悩んでいたのですが………」
「黙りなさい、ルカ!」
「姫様、今は大人しくしていて下さい」

ラファエロ達に說明を始めたルカに向かって、ラヴィニアが再び怒鳴りつけるが、ルカはそれを聞き流した。
おそらくオルカーニャ国王がルカをラヴィニアの『従者』として彼女につけているのは、こうしてラヴィニアの暴言に動じることなく、また、時にはラヴィニアを諌めることも厭わないルカの冷静さ故だろうと感じる。
そして、怒鳴りつける割にはラヴィニアもルカのいう事を最終的に聞いているのが不思議だった。

「………姫様の婚約の話が出た頃から、陛下も少しずつお考えを改められたのです。どの家も、姫様の我儘に辟易し、次々と辞退をし、ようやく婚約まで漕ぎ着けても姫様が嫌だと言い張り、縁談は纏まりませんでしたから………」

そう説明したルカの表情は変化がなかったはずなのに、リリアーナの目には、何故か寂しげに映ったのだった。
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