猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

71.ルカの謝罪

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異様な空気に包まれた中庭には、クラリーチェとリリアーナ、リディアやアンナ、それにダンテといった護衛や侍女とともにルカが取り残された。

彼は黙ったまま、リディアが差し出したタオルで騎士服に染みたお茶を拭うと、改めてクラリーチェのほうへと向き直った。

「王妃殿下並びにグロッシ侯爵令嬢。この度の我が主の振る舞いについて、深くお詫び申し上げます」

優雅で美しいとしか形容出来ない、完璧な所作でルカはクラリーチェとリリアーナに向かって深々と頭を下げた。

「私ごときの謝罪で済まされる事態ではないということは、重々承知しております。…………申し遅れましたが、私はインサーナ侯爵家の次男でルカと申します。縁あって、姫様………ラヴィニア王女殿下の従者を務めさせて頂いております」

名乗りながら、ルカは顔を上げた。
烏の羽のような艶のある漆黒の瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

「我が主の傍若無人な振る舞いを止められなかったのは、全て私の責任です。私が未熟なばかりに…………」

途中で言葉を詰まらせたルカは、悔しそうに顔を歪めた。

あの王女については、全く話にならないが、どうやら従者だという彼は至極まともな人間らしかった。
それにしても、通常王女の従者には伯爵家以上の貴族令嬢が選ばれるはずだが、幼馴染とはいえ、男性が選ばれるというのはかなり異例だ。
勿論、専属の執事のいる令嬢も少なからずいるが、王族女性の場合、女官がその役割を果たすため、執事は不要だ。
将来女王になる王女であれば、側近候補、あるいは王配候補として然るべき家柄の優秀な子息を従者として付ける場合もあると聞く。
しかし、兄のいるラヴィニアの場合は、その例には当てはまらない。

考えれば考えるほど、何故彼はラヴィニアの従者なのか分からなくなっていく。

「エドアルド様やラファエロ様はともかく、私は気にしておりませんわ。………それよりも、早く着替えられたほうが良いのではないですか?そのままでは、風邪を引いてしまいます」

リリアーナがあれこれと考えていると、柔らかな笑顔を浮かべたクラリーチェが、静かにそう告げた。
すると、ルカははっとしたように目を見開き、それから少しほっとしたような、けれどもどこか苦しそうな表情を浮かべ、もう一度深く頭を下げた。
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