猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

40.王女の来訪

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結局、オルカーニャの王女については大した事前情報を掴めないまま、とうとう到着の日を迎えてしまった。

コルシーニ伯爵率いる王家の影の力と、カンチェラーラ侯爵とグロッシ侯爵の外交力を以てしても殆ど情報が得られなかったのは、偏に時間が足りな過ぎたからだ。
おそらくオルカーニャ国王は、それを見越して、一週間前に知らせを寄越したのだろう。

「全く、いい迷惑どころの話ではないな。何が悲しくて女のせいでクラリーチェとの憩いの時間を削られねばならんのだ」
「………エドアルド様。そのような事を仰らないで下さい。私はお側におりますから………」
「そうですよ、兄上。お願いですから、絶対に私情を挟んだ発言だけは止めて下さいね」

実に不快そうな表情を浮かべるエドアルドに、クラリーチェは困ったような笑顔を浮かべ、ラファエロは呆れたように嘆息し、嗜める。
リリアーナはそんな三人を眺めながら軽く苦笑いを浮かべた。
結婚後もエドアルドの女嫌いは健在らしい。
「キエザ国王」という立場がある手前、滅多な事は言わないだろうが、それでもエドアルドという人間を熟知している者にとっては気が気ではないのだろう。

「…………勿論、分かっている」
「そのように、表情に出されるのも駄目です」

追い打ちを掛けるようにラファエロがエドアルドに冷ややかな視線を送った直後、オルカーニャ王女の到着が告げられ、ゆっくりと謁見の間の扉が開いていく。

かつん、と甲高い靴音が謁見の間に響いた瞬間、場の空気が変わった。

真っ先に目に飛び込んできたのは、燃え盛る炎のような真紅の、やや強めに波打つ髪だった。
その印象的な髪が彩る小振りな顔は整っていて、意志の強そうな黒い瞳と、エキゾチックな小麦色の肌が彼女の魅力を最大限に引き立てている。
蠱惑的な唇は髪と同じ真紅の紅で飾られいる。
その様子はディアマンテや他の側妃達と何ら変わりはないのに、不思議といやらしさは感じられなかった。

彼女を一目見たリリアーナは、まるで真夏の太陽のようだと思った。
ただそこに存在するだけで、人を惹き付ける存在。
勿論エドアルドやラファエロ、それにクラリーチェにもそのような印象がない訳では無いが、より強くそう感じてしまうのは、鮮烈な、視覚からの印象のせいだろうか。
リリアーナは王女が目の前を通り過ぎていくところを見つめながらそんなことを考えていた。

「初めてお目に掛かります、国王陛下並びに王妃殿下。オルカーニャ王国第二王女ラヴィニア・デ・オルカーニャでございます」

ラヴィニア王女はエドアルドの前まで進み出ると、優雅な仕草でカーテシーをした。
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