猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

34.動揺

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結局その日も、そしてそれ以降の日も、ラファエロがリリアーナとともに一晩を過ごすことはなかった。
温泉に出掛けた翌日からは、午前中に政務を片付け、午後は二人でお茶を楽しんだり、王都の下町に出掛けて散策を楽しんだりと「ごく普通」の貴族の恋人のような過ごし方だったが、それはリリアーナにとっては嬉しくもあり、同時に物足りなさもあった。

初日と二日目は、驚きと感動の連続だったせいだろうか。
それとも、あの二日間のような、日常とかけ離れた時間が過ごせないからなのだろうか。

変わらず穏やかな笑顔を浮かべ、あれこれとリリアーナに尽くしてくれるラファエロに申し訳なさを感じながらも、リリアーナは悶々と悩んでいた。

「何だか、浮かない顔ですね」

気が付けば、エドアルドとクラリーチェが帰国する日が翌日まで迫ってきていた。
王宮に留まる約束は、国王夫妻の不在の間のみだ。
つまり、ラファエロと隣の部屋で過ごせるのは今日が最後だ。

結婚してしまえばそれが当たり前になるというのに、名残惜しいと感じるのは、王宮に留まっていたこの三週間余りの間、ラファエロが全く手を出そうとしなかったこともあるだろう。

初日の夜も、熱を孕んだ目を向けてくるのに、目眩がするほどに甘い言葉を吐くラファエロは、髪に口付けをしただけで、それ以上のことをしようとはしなかった。

ふと、エドアルドはクラリーチェと結婚するまでの間、絶対に一線を越えることをせず、その欲求不満を解消するために、ラファエロやダンテを相手に、激しい鍛錬をしていたのだとリディアから聞いたのを思い出す。
もしかすると、ラファエロも「初夜は結婚の日の夜に」などという理想を抱いているのだろうか。

「あの…………」

リリアーナは口を開きかけ、そして我に返り、喉の奥まで出掛かった言葉を止めた。
一体自分は、何を口走ろうとしていたのだろう。
まさか、「私を抱いて下さらないのは、初夜は結婚式の夜まで取っておきたいからなのですか?」と訊ねることなど出来ないだろう。

「何ですか?」

優雅な仕草でティーカップを置くと、ラファエロは笑顔を向ける。

「………あ、明日はいよいよ陛下とクラリーチェ様が帰っていらっしゃいますねっ」

妙に早口な感は否めなかったが、何とか動揺は誤魔化す。

「そうですね。………兄上達が戻ってきたら、いよいよ本格的に動かなければなりませんね」

エメラルド色の優しい眼差しに射止められ、リリアーナはどきりと心臓が跳ねるのを感じた。

「ええと………何を、でしょう?」

先程の動揺と動悸が相俟って、息苦しくなるほどに胸が高鳴っていく。
それを気づかれまいと、リリアーナは深く息を吸い込みながら平静を装って訊ねた。

「決まっているでしょう。私達の結婚式ですよ」

いつの間にか、ラファエロが浮かべているのは満面の笑みに変わっていた。
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