猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

26.白亜の宮殿

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「リリアーナ」

耳元で優しく自分の名を呼ぶ声に、リリアーナははっと目を開けた。

「気持ちよさそうに眠っているあなたを起こすのは忍びなかったのですが………目的地に到着しましたよ」
「わ、私いつの間にか眠ってしまったのですかっ?」

馬車の心地のいい揺れと、ドレス越しに伝わってくるラファエロの体温のせいで、あのまま熟睡してしまっていたことに気が付き、リリアーナは慌てた。

「ふふ、ぐっすりと眠れたようで良かったです。今日の寝顔も、可愛らしくてずっと眺めていたかったですよ」
「え………?ず、ずっと寝顔を見ていらっしゃったのですか………っ?」

ラファエロの口ぶりから推測する限り、彼はリリアーナが眠っていた間中、寝顔を見つめていたらしかった。

「恥ずかしがる必要など、全くありません。………それに、あなたの寝顔を見れるのは私の特権のようなものですから、たとえあなたといえども、それを邪魔することは許されませんよ」

楽しそうに微笑むラファエロの理論は滅茶苦茶で横暴なのに、リリアーナはその言葉に素直に頷いてしまったのだった。


そんなやり取りの後、ラファエロにエスコートされて馬車を降りたリリアーナは、目の前に広がる景色に、大きく目を見開いた。

そこには、白亜の宮殿という表現が一番しっくりくるであろう、立派すぎるほどに立派な建物が立っていた。
純白で覆われた外壁に、コリント式の彫刻で彩られた柱。
建物の周囲は南国の花々で埋め尽くされていた。

「元々はわりとこぢんまりした施設だったのですが、父が妃方………いえ、愛妾達を侍らせながら入浴できるようにと、かなり大規模な改修をして、このような姿になったそうです。………建物は悪趣味ですし、使用目的も大変いかがわしいものですが、温泉に罪はありませんからね」

ラファエロは馬鹿にしたようにふっと嘲りの笑みを浮かべてから、その笑みを極上のものへと変え、徐ろにリリアーナの体をふわりと抱き上げた。

「ら、ラファエロ様…………っ」

驚きと羞恥に、リリアーナは抗議の声を上げるが、そんなものはラファエロの前ではなんの意味もなさないことをリリアーナは知っている。

「参りましょうか、お姫様?」

ラファエロはいたずらっぽく片目を瞑ってみせると、ゆったりとした足取りで、建物の中へと進んでいくのだった。
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