猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

16.散策(2)

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「こうした人情味溢れるやり取りも、楽しいでしょう?」

いたずらっぽく片目を瞑るラファエロは、いつもより少し幼く見える。

「ええ。それに、宝探しでもしているような気持ちになりますわ」

リリアーナが嬉しそうに顔を輝かせると、ラファエロはまた微笑んだ。

「せっかくのフォカッチェリアです。冷めないうちにいただきましょうか」
「はい」

そこでリリアーナははっと気が付いた。
ラファエロは王弟であり、王位継承権第一位の尊い身だ。
いくら粛清により危険が減ったとはいえ、彼とエドアルドによって排除された腹違いの兄弟姉妹や、ブラマーニの残党に命を狙われる可能性は捨てきれないし、食中毒などの危険もあるのに、露店の食べ物を、毒見なしで口にしてもいいのだろうか。

「あの、毒見は………?」

リリアーナが心配そうに訊ねると、ラファエロは驚いたようにリリアーナを見つめてから、実におかしそうに笑い出した。

「リリアーナ………あなたは本当に真面目ですね。グロッシ侯爵の娘とは思えないくらいです」

何を笑われているのか分からずに、リリアーナはぽかんと呆けるしかなかった。

「毒見役が必要であれば、初めから護衛なりを連れてきますよ。ですが、今日はあなたと二人きりなのですから、そういうかたくるしいことはなしにしましょう?」

ひとしきり笑ってから、ラファエロは手にした、フォカッチェリアをぱくりと一口齧った。
そしてゆっくりと咀嚼して飲み込んでいく。

「うん、美味しいです。リリアーナも食べてみてください。マナーも、人目も、気にする必要はありません。あなたの好きなように食べてみて下さい」

さあ、と促され、リリアーナは困惑しながらもラファエロがしたように、大きく口を開けてフォカッチェリアに齧りつく。
表面はカリッと、中はもっちりとした生地に、オリーブの塩気が相まって、素朴さの中にも深さのある味わいが口の中に広がっていく。

「美味しいですわ………!」

空腹のせいもあるだろうが、こんなにも美味しいパンは初めて食べた気がした。

「気に入って頂けてよかったです。私もここのフォカッチェリアは好物なんですよ」

そう言いながらもラファエロはフォカッチェリアを頬張っている。
いつものラファエロとは一味違う無邪気さが滲み出ていて、リリアーナは何だか嬉しくなった。

「その口ぶりですと、フェロナここにはかなり頻繁に通っていらっしゃったのですね?」

ラファエロに倣い、リリアーナもわざといたずらっぽく微笑んだ。
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